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「オーナー、藤本さんいらっしゃいましたよ」
ホールのスタッフが、キッチンで前菜の盛り付けをやっていた僕に声をかけてくれる。
今日はクリスマスイブ。僕が営む小さなフレンチレストランの予約も満了だ。
とは言え、小さな個室を5室用意しているだけのこの店は、必要以上にてんてこ舞いということはない。オープンのフロアにすれば席数はもっと増やせるけれど、目が行き届かなくなるようでは、僕がやりたい店ではなくなってしまう。
「リラにご案内しました」
「ありがとう」
個室にはそれぞれ花の名前がついている。すぐに盛り付けを終わらせて、リラのドアをノックする。
「はーい」
明るい声。ドアを開くと、小部屋に据え置いたテーブルに、高校時代の同級生、藤本が座っていた。互いに30になったけれど、相変わらず可愛らしさのあるイケメンだ。
「久しぶり。今日はありがとうな」
「こっちこそごめん。無理言って」
藤本は苦笑して、茶色く脱色した長い髪をかきあげる。
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