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ブルー17歳の誕生日
「佐藤、どうすんだよ、あさっての紺野先輩の誕生日?」
1月29日、部活帰りに青南の近所の”キッチン“でたむろしてる時に、同じ戦型の浜田がいきなり聞いたから、むせた。丁度コーラを飲んでいる時だったから。
「きったねえな。」
浜田は大げさに顔をぬぐっている。ドライブの川上が背中を叩いてくれる。カットマンの小松は涼しい顔でポカリを飲んでいる。真冬なのにポカリか?むせながらも必死に言い返す。言い返しとかないと。
「何だよ、それ?」
浜田がニヤニヤしながら聞く。
「だってお前、どう見ても好きだよな、紺野先輩のこと。」
「は?」
「そういや、夏合宿でお前、紺野さんと混ダブ組んでたもんな。なに、あの時からなの?」
小松がしれっと聞く。
「別に好きじゃないよ。」
「へえ、でもお前練習中いつも見てるよな、先輩のこと。」
バレてたんだ。段々と顔が赤くなってくるのがわかる。まずい、とてもまずい。
「でもさ、紺野先輩ってビー部のキャプテンの彼女なんだろ?」
川上が心配そうに言う。こいつはとても優しい。
「ああ、ゴールドさんだっけ?」
クールなくせに学内の情報通の小松が言う。そういえば、夏合宿以降、卓球のことを相談に先輩のクラスに行くようになったけど、その度に廊下側の大きい人が大声で、
「ブルー、カルガモちゃんがいらっしゃったぞー。」
とわめく。あの人だろうな、きっと。そう言われた時の先輩はいつも、
「るさいゴールド、佐藤が可哀そうでしょう。いちいち怒鳴るな。」
なんて威勢よくかばってくれる。
先輩は僕が入部した時からよく守ってくれる。身体が小さくて、ひょろひょろした僕のことを。前陣速攻のかなめのスマッシュ練習も、よく付き合ってくれる。上手くコーナーをついた球が決まると、ハイタッチで喜んでくれる。その笑顔を見ているうちに、僕は気づくと先輩の姿を目で追うようになった。夏合宿の女子の決勝戦で、先輩は凄かった。いつもは冷静な瞳が炎のようだった。すごい気迫で、応援してるこちらも手に汗がにじんできた。その後、こともあろうに、僕はくじ引きで翌日の先輩の混ダブ相手をひいてしまった。その夜、恒例の肝試しに、先輩は緊張していた僕の手をひっぱって行った。
「あんた、手が冷たいね。大丈夫?肝試し、苦手なの?」
とびっくりして言う先輩の顔がまともに見られずに、
「いえ、先輩が明日の相手だからです。」
と下を向きながら答えた。
「なにあんた、もしかしてお化けよりあたしが怖いっていうの?」
慌てて顔を上げると、先輩は腰に手をあてて笑っていた。あの夏の一瞬一瞬を覚えている。何もかも素敵だった。こうして真冬のコンビニでも一つ一つを思い出せるくらいに。でも、見てるだけでいい。憧れの先輩として。
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