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マットレス
1
堀田町子から、このマットレスを燃やすから手伝ってくれ、と電話がかかってきた。
理由を聞いても、とにかく燃やすのだ、としか答えない。
町子と話をしたのは、考えてみるとおおよそ三年ぶりのことだった。だからそのこと自体は嬉しかったが、何か彼女が尋常でない様子なのは、電話の向こうから聞こえてくる、その声音からも確かなのだ。
「いったいどうしたんだよ」
そう僕は聞いた。でも町子は、
「いいから、続きを聞いて」
と有無を言わせない。
これからそのマットレスを燃やしに行くと言っても、町中で盛大にそうするわけにはいかないので、奥多摩の山中に運び、そこでひっそりとやるつもりなのだ、という。
「でも私、免許持ってないでしょ」
町子はそう、いやに冷静な声で言った。
「だから悪いんだけど、今からどこかでレンタカーを借りて、迎えに来てくれない? 車は、大きめのやつでね。わかるでしょ。だってこのマットレスを積まなきゃいけないんだから」
「そんなに、そのマットレスは大きいのか」
試しに僕はそう聞いてみた。
「うん。すっごく、大きいの」
向こうに決して気取られないよう、僕は慎重にため息をついた。そして指先で額を掻きながら、しばし頭を巡らせた。
時計を見ると、午前十時を少し回ったところだ。その日は日曜日だったが、先日僕は仕事を辞めたばかりで、特に一日何も予定はない。
来月に予定していた、四国へのひとり旅の予定でもーーコーヒーでも飲みながら、のんびり立てるつもりでいたのだ。
でもそんなことより、町子のことが心配になってきた。この時点で、直接尋ねられるような雰囲気では到底なかったがーーここまで話を聞いてみて、町子がどうして、特にこの僕に、そのような頼みの電話をしてきたのか、なんとなく見当はついてきたのだ。
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