3月

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3月

(あん)」  桜の蕾がまだ固い、卒業式の後の校庭で。懐かしい声に振り向くと、そこには悠斗がいた。名前を呼ばれたのはいつぶりだろう。悠斗の目がまっすぐ私を見てるのも、すごく、久しぶりだった。 「後でね、杏ちゃん」  そう言って、気を遣ってくれた友達が走り去る。  数ヶ月ぶりに見上げる悠斗は、また少し、背が伸びたように感じた。  ふと目がとまる。悠斗の制服の胸に、第二ボタンがない。 (新しい彼女、できたのかな……)  もやもやが渦巻いた私の胸の前に、悠斗はグーにした右手を突き出した。 「え?」 「もらって。後で捨ててもいいから」  そう言われて、反射的に両手をお椀の形にする。コロンとその中に落とされたのは、にぶい金色のボタンだった。  顔を上げると、縦に五つ並んでる悠斗のボタンのうち、外れてるのは胸の第二ボタンだけ。もうカレカノでもないのにそれを渡された意味が分からなくて何も言えずにいると、悠斗は真剣な顔でうつむいた。 「今さらだけど……いろいろ、ごめん」  その「ごめん」は、両親に連れられてうちに謝りに来た悠斗が、ふてくされたような顔で私を見ないようにして言った「すいませんでした」とは、全然違う。  二人で話すこともないまま「ごめんなさいで仲直り」みたいにされた私たちは、10月のあの日から、何もなかったみたいに今日まで同じ学校で過ごしてきたけど。
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