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手の中のボタンは、熱いほど温かい。私に話しかけるタイミングを計って、ずっと握りしめていたのかな。
私よりいつも少し高い、悠斗の体温。それに触れていたあの頃を思い出して、胸がぎゅっと苦しくなった。
「ありがとう」
ちゃんと謝ってくれてありがとう。
真剣に、考えてくれてありがとう。
つきあい始めた一年前。クラスが別れて残念だねって言い合った今年度の春。あの頃から、悠斗の心臓に、ココロに近いところにあった、制服の第二ボタン。それを今日くれたのはただの思いつきなんかじゃないって、悠斗のことずっと見てきたから分かる。
「わ、私も……」
学ランの男子と違い、ブレザーの女子のボタンはお腹に三つある。みぞおちと、おへその上と下に。
私は自分の第二ボタンに一旦指をかけ、少し迷ってから、その手を下にずらした。下腹にある第三ボタン。それを掴んでグッと引っ張る。
ボタンは布地と一緒に前に持ち上がり、そこから離れようとしない。左手で布を押さえて引き離そうとしても、右手が痛くなっただけで糸は切れなかった。
「貸して」
悠斗が一歩近づいて、指を伸ばす。
「第三でいいの?」
手を離した私がうなずくと、悠斗は私のブレザーの裾を持って、驚くほど簡単にボタンをむしり取った。
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