8月

1/2
101人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

8月

「赤ちゃん、できたみたい」  夏期講習が午前中で終わった真夏日、お昼を食べてから(うち)に来た悠斗に、私は検査薬を見せた。 「え……?」  悠斗は固まった。怒ったような顔で、私が座卓(テーブル)の上に置いた検査薬をじっと見たまま動かない。 「これ、右の線が検査終了、左のが陽性ってことなんだって」  説明しても黙っている悠斗に、私は続けて言った。 「陽性っていうのは……お腹に赤ちゃんいる、ってこと」  狭い部屋に響く蝉の声と、エアコンの音。それを聞きながらしばらく待つと、悠斗がやっと口を開いた。 「なんで?」 「……『なんで?』?」  思わずオウム返しにした。なんでって、なんで?何が、なんで? 「だってちゃんと、つけてただろ」 「そうだけど……あれって100%大丈夫ってわけじゃないでしょ」 「そうなん?」 「え……っ」  そりゃあそうだよね。穴が空いてたとかじゃなくても、確実に避妊できる保証なんかない。それは、保健体育でも習ったはずなのに。 「それ、(あん)は知ってたんだ?」  低い声でそう言われて、私はうつむいていた顔を上げた。悠斗はちょっと眉をひそめて、責めるような顔で私を見てる。  知ってたよ。悠斗は知らなかったの? ていうか、これって何? なんだか、知ってたのに言わなかった私が悪い、みたいな。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!