101人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
8月
「赤ちゃん、できたみたい」
夏期講習が午前中で終わった真夏日、お昼を食べてから家に来た悠斗に、私は検査薬を見せた。
「え……?」
悠斗は固まった。怒ったような顔で、私が座卓の上に置いた検査薬をじっと見たまま動かない。
「これ、右の線が検査終了、左のが陽性ってことなんだって」
説明しても黙っている悠斗に、私は続けて言った。
「陽性っていうのは……お腹に赤ちゃんいる、ってこと」
狭い部屋に響く蝉の声と、エアコンの音。それを聞きながらしばらく待つと、悠斗がやっと口を開いた。
「なんで?」
「……『なんで?』?」
思わずオウム返しにした。なんでって、なんで?何が、なんで?
「だってちゃんと、つけてただろ」
「そうだけど……あれって100%大丈夫ってわけじゃないでしょ」
「そうなん?」
「え……っ」
そりゃあそうだよね。穴が空いてたとかじゃなくても、確実に避妊できる保証なんかない。それは、保健体育でも習ったはずなのに。
「それ、杏は知ってたんだ?」
低い声でそう言われて、私はうつむいていた顔を上げた。悠斗はちょっと眉をひそめて、責めるような顔で私を見てる。
知ってたよ。悠斗は知らなかったの? ていうか、これって何? なんだか、知ってたのに言わなかった私が悪い、みたいな。
最初のコメントを投稿しよう!