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「悠斗、どうしよう……」
「どうしようって……」
麦茶のグラスについた水滴が、大きくなってくっついて、流れ落ちる。
悠斗はただ、黙っていた。
親に叱られて、ふて腐れるみたいに。「もういいよ」って言われて、解放されるのを待ってるみたいに。
(だって、悠斗の赤ちゃんだよ……?)
その一言が、言えなかった。重い沈黙がつらくて、悠斗が早く帰りたいと思ってることだけはすごく伝わってきて。
「考えといて、ね……?」
私がそう言ったら、悠斗はそれを待ってたみたいに立ち上がった。
一緒にお菓子を食べて、笑い合って、勉強して、キスして、愛し合って。二人で過ごした思い出がいっぱい詰まった私の部屋を、悠斗が早足で出て行く。リビングを通って玄関まで送ったけど目も合わず、振り返りもしない悠斗の背中はマンションドアの向こうに消えた。
(お腹に触るどころか、私に触ろうともしなかったな……)
小さな三和土には、さっきまで悠斗の靴があったスペースが空いている。そこにぽたりと、涙の雫が落ちた。
「うえぇん……っ」
寂しくて不安で泣きながら、それでも私はこの時、悠斗が部屋に来るのがこれが最後だなんて、想像もしていなかった。
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