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9月
「お誕生日おめでとう、杏」
夏休みが明けてすぐ、私は15歳になった。ママは残業せずにケーキを買って帰って来てくれて、食卓には私の好物ばかりが並んだ。
「ありがとう」
小さな丸ケーキに立てた蝋燭の火をそっと吹き消す。毎年そうするように、ママは
「大きくなったねぇ」
って私に目を細めた。
ケーキを食べながら、私が生まれた日のことや小さい頃の思い出を話してくれる。それをぼんやり聞いてたら、心配そうな顔で覗きこまれた。
「最近元気ないね、どうしたの?」
本当は、誕生日に打ち明けようかとも考えてた。悠斗のことと、赤ちゃんのこと。ママならきっと、頭ごなしに怒ったりしない。
でも。
7年前にパパが死んでから、一人で働いて私を育ててくれたママ。私を自慢の娘だと言ってくれるママに、がっかりされたくなかった。
「受験が心配で……」
「大丈夫よ、先月の統一テストでも合格圏だったんだし」
「うん」
うちは母子家庭で余裕がないから、私立高校には通えない。推薦で公立を狙ってるけど、妊娠が分かってからは全然集中して勉強できてなかった。
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