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「私、産む。産んで育てる」
そう言うと、悠斗は化け物を見るような目で私を見下ろした。
「冗談だろ?」
「冗談ってどういうこと? じゃあ、最初から堕ろすつもりだったの?」
「それ決めるのは自分だろ?」
「なんで、私一人で決めることになってんの……?」
「俺にどうしろって言うんだよ!!」
悠斗の怒鳴り声を、初めて聞いた。優しくて穏やかで、他の男子よりずっと大人だと思ってた自慢の彼氏。
大きな声に体が震えた。滲んだ涙を見せないようにうつむいたら、地面にこぼれた分だけ後から後からあふれて止まらなかった。
「俺が悪いって言うのかよ……」
「違……っ」
違うよ。誰も悪くないよ。責めるつもりなんかないし、責任とか誠意とか、そういうのを求めてるわけじゃない。
(産みたいとか産めるわけないとかよりまず、ちゃんと話をしたいだけなのに……っ!)
喉が詰まって言えなかった。
結果的に堕ろすんでも、一緒に考えたり悲しんだりしてほしいのに。「子どもまだ無理だけど、杏とは一緒にいたい」って言ってくれれば、それでいいのに。
悠斗は居心地悪そうに何度も足を踏み替えながら、私が泣き止むまでそこにいてくれたけど。優しい言葉は何も、かけてくれなかった。
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