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7月
(嘘……)
私は震える手に持った妊娠検査薬を、じっと見つめた。
体温計みたいな白い棒に浮き出たのは、ピンクの細い線が2本。何度も読んだ説明書をもう一度見る。読み間違いであってほしい、そう思ったのに。
左側に2本目の線が出たら、陽性。つまり、私は妊娠してる。
「99%以上の正確さ」
買うときに決め手になったパッケージの文字が、呪いみたいに見える。
(赤ちゃん……?)
自宅の蒸し暑いトイレで、汗をかいた頭がぐらりと揺れた。
(どうしよう、悠斗……)
汗だくになった私は検査薬を片手に自室に戻り、ベッドに仰向けになった。
こういうとき、一人っ子でよかったと思う。ママは仕事で遅いし、こそこそする必要も、誰かに話しかけられる心配もない。
(いつできたんだろ……?)
悠斗の汗も染み込んでるはずのシーツの上で考えたけど、そんなの分からない。
スマホのカレンダーを見ると、前の生理が始まったのは6月5日。期末試験に当たるかと思ってた今月のが来なくて、ラッキーと思っていられたのはテストの間だけだった。3日遅れ、5日遅れ、トイレに行くたびドキドキするのに始まらなくて。
予定日を1週間過ぎたら検査薬で確認できるって知ってたけど、
「ただ遅れてるだけ、暑いから体調崩してるだけ」
って自分に言い聞かせて3週間。
駅前の薬局で買った妊娠検査薬は、漫画一冊くらいの値段だった。値段より、レジに持っていくことの方がハードルが高くて。大人っぽく見える服を選んで行ったけど、高校生だと思ってもらえたかは分からない。
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