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すごく、嫌だ。心臓がちくちくする。今、物凄く嫌な顔してないだろうか。何とか無表情までは抑えてるつもりなんだけど。
「…ふぅん」
その一言のうちにいろいろな気持ちを押し込めて、僕はさっさと歩き出す。玲次は数歩のうちに追いついて、僕の右側についた。
何か喋らなくちゃ。でも、話題が浮かんで来ない。
「今日」
「え?」
頭の中で無難な話題を探し続けていた僕に、玲次が先に話しかけた。
「お前、何着るんだ?」
「ああ、えーとね」
今日、うちライブだったんじゃん。その話でいいのに、すっかり動揺していたらしい。
「ほら、前がこーやってぴらぴらになったブラウス。こないだ見せたやつ」
言いながら、指で大きな波線を描いてみせる。フリルって言うのかな。
「ああ、あれ。お前大きいって言ってなかったっけ」
「大きめ、って言ったんだよ」
「崇純さんって、俺より少し小さいくらいじゃなかったっけ」
そのブラウスは、崇純さんの衣装だったもの。もう着ないからって譲ってくれたんだ。
「うるさいなぁ。腰とか紐で絞れるようになってるから平気」
「袖余るんじゃねぇの?」
玲次がニヤニヤしながら、僕の顔を見る。
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