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「香坂くんっ」  いい気持ちで数学を睡眠学習していた僕の肩を、誰かが揺さぶる。女の子の声だ。いつの間に授業終わったのかな。 「香坂くーん、授業終わったよ」  わかってるけど、眠いんだもん。無視して寝続ける。 「リュウくーん」 「…僕は香坂くんだよ…」  学校でステージネームは遠慮したい。仕方なく顔を上げると、うちのクラスの数少ない女子が、三人とも揃っていた。 「なに」 「聞いていい?」  内容によっちゃいいけど。でも眠い。 「毎日来てる人いるでしょ? バンドの人?」 「ん? 玲次?」  毎日来てるのって、玲次のことだな。最近はまるでハチ公のように正門にいる。そのうち、通行人に餌もらうんじゃないかな。 「れーじさんっていうの?」 「うん、うちのギター。あれがどうかした?」  僕にとっちゃ、当然珍しくも何ともない人間なので、彼女たちの目的が見えない。 「K高校だよね、あの制服」  通称K高校。ここらで一番の進学校だ。それを聞いた時は本気でひっくり返ったよ、僕。 「うん。そう。何か悪さでも?」  あいつが今更、女の子に悪さするとは思えないけど。 「何でそうなるのよ。彼女いる?」  そうか、存在自体が悪さするんだな。見た感じカッコいいもんなぁ。アイドルみたいなもんか。 「いないけど?」
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