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……また気を失っていたようだった。頭痛はいくらか軽くなっている。離れの天井だ。佳人は和室の布団に寝かされていた。
――あれからどれ程の時間が経ったのだろう。みのりは。
痛むこめかみを押さえながら、和室を出て、離れの廊下をぺたぺたと歩いた。窓の外には夜の帳がおりている。
唐突に、江島の顔が蘇った。
――俺が刺した?
これまで数えきれない程の暴力を振るい、振るわれてきたが、刺してしまったことはない。江島は、無事だろうか。無事でいてほしい。一瞬だけ自分に向けられた、吉田の憎悪に満ちた表情を思い出し、暗い気分になった。
罪悪感を打ち消すべく独り言を呟いた途端、脳内に稲妻が落ち、たまらず床に這いつくばった。数度嗚咽した後、壁に体を預け肩を擦りつけながら玄関へ向かう。戸を引いたが動かなかった。ガタガタと揺らしてみても駄目だ。外から鍵が掛けられている。たしかに内鍵がないことに気づいてはいたが。
時折、内部から殺されるような痛みを抱えながら、離れ中の窓を確かめた。どこもかしこも玄関の戸の同じく外から鍵が掛けられている。……この離れは誰かを幽閉するために作られた。佳人ははじめから檻の中に入れられていたのだ。
まるで悪い夢をみているようだ。土着信仰。民間伝承。なんと都合のいい言葉だろう。
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