序 章

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序 章

 それは家族写真だった。  中央に着物姿の男を捉えている。青年特有の強気な三白眼、すっと通った鼻筋、女のように華奢な首元。男は、若い頃の父親だ。両脇に二人の子どもを抱え、硬い微笑みを浮かべている。父の左脚に一人の少女が纏わり立っている。日本人形のように可愛らしい容姿に、丸々と整った両瞳だけがどこか異国情緒を感じさせる。手に丸い皿状の物――面か盆か――を持ち、緊張した瞳で真っ直ぐにこちらを見つめている。  その反対側に佇むのが幼少時の自分だ。短く刈られた髪。短い着物から覗く痩せた脹脛。細い腕を所在なさげに折り曲げ、父の腕を掴んでいる。こうして並び立つと、自分は父によく似ている。  彼は写真を机上に置いたまま、落ち着かない様子で、手狭なワンルームを右往左往としていた。書籍がびっしり詰まった書棚から一冊の本を抜き取り、無造作にページを捲ったかと思えば、すぐに閉じ、書棚には戻さず、机上に置いた。本の表紙にはモダンアートよろしく極彩色の簡易的な記号を組み合わせ、四人の人間を表した画が描かれている。二年前にとある小さな出版社から世に出された彼の処女作だ。  ――ファミリーフォトグラフィ、津雲(つくも)佳人(よしと)
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