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闇夜の閑静な公園に一人の中年男が佇んでいる。
凍りついた手を暖かいブラックコーヒーで温めながら、吐息する。
目に見える白い息と吹雪が綺麗に混ざっている。
寒さで震える手でキャップを開け、ゆっくりと口へと運ぶ。
一面に広がる苦さと共に身体中が見違えるようにポカポカと温まる。
積もりに積もった雪で錆びかけたブランコが埋もれそうになる。
男はそのブランコを凝視しながら、コーヒーを口へ運ぶ。
コーヒーを飲みきり 眼鏡の下の雪をほろう。
冷たい雪解け水に混じり 暖かさを含む液体が目から流れ落ちている。
「自分には嘘をつけないってか。」
そう微笑むと公園を後にした。
雪もすっかり止み、行きの足跡が鮮明に見える。
それでも強風が肌を更に冷やしていく。
ゼェゼェと白い息を吐き出しながら引きずるように歩く男
人影のない民家へ到着し、凍えきった手で鍵をいつもより時間をかけながら開けていく。
温暖な玄関に迎えられて男は、今日も仕事を終える。
冷えた唐揚げ弁当と潰れかかったポテトサラダをつまみながら、手元の書類とにらめっこする。
「はぁー 明日も残業だろうなぁ..」
アツアツのコタツの上で気分はすっかりと冷えきっていた。
汗まみれのスーツを洗濯機に入れる頃には 時計は二十三時を回っている。
男は決まって この時間になると必ず仏壇の前に立ち 合掌する。
笑顔が絶えない若い女性の遺影
今にでも喋りかけそうな女性に男はポツンと呟くように話しかける。
「優子 今日も無事に仕事を終えることが出来ました。
最近は残業が多くて疲労が溜まってるけど、夏子の笑顔を見る度に元気になるよ。
これも優子のパワーのおかげかな?
優子は向こうで元気に過ごしていますか?
優子らしく元気に過ごしている事を願ってます。
また明日も宜しくね!」
あれはもう二十年以上前の事である。
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