甘い過去 苦い現代

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いつもより早いアラーム 目を擦りながら慣れもしないスーツ姿に身を固める。 試験本番 ライバル達は見た目からエリート感満載で高難易度のドリルを読み漁っている 。 この日のためにと言わんばかりに拳をぎゅっとにぎりしめる。 「では 始めてください!」 担当者の合図とともに無我夢中にペンを走らせていく。 これが未来への第一関門 心の中で呟きながらひたすらペンを進める 「では そこまで 」 全て書いた 最終確認も怠らなかった。 既に勝利を確信している。 しかし休憩中だと言うのにやけに静かである。 いくら本番だと言え 同級生と話す姿はよく見るというのに..... 裕二首を傾げながら面接資料を読み漁って言った。 程なくして別会場へ案内された。 緊張の冷や汗を流しながら待機している傍らには、じっとタイル状の机を見つめながら待機するエリート軍団が視線に入る。 いよいよ謎が深まるばかり 「では一組目の方お入りください。」 トップバッターの重圧を背負いつつゆっくりと第二関門でありラストバトルの場へと進む。 豪勢さを思わせるレッドカーペット 貫禄を放つ面接官 お座敷の様な会場に自然と引き込まれたのが今となっては幸いであった。 志望動機 思い出 活躍 長所 短所 練習以上にありとあらゆる話を展開させ自分という商品を全力PRしていく。 練習したと思われた残り二人は 口元が覚束 沈黙の時間が流れ続けていた。 裕二は内定間違いなしと高を括ると同時にこの日をきっかけに頭脳派を卑下するようになってしまった。 有頂天の気分で 会社を後にしていく。 「お疲れ 裕二」 人気が少ない公園で優子は待ち伏せをする。 白い吐息が風を伝い裕二の髪を靡かせた。 「ずっと 待ってたよ。」 「ずっと?」 「うん、いつ終わるかワクワクしてたっさ。」 「ありがとう。」 裕二の記憶が掘り返される。 「あ、あのさ?」 「うん?」 「昨日何を言おうとしてたの?」 「昨日って?」 「ほら 近くのコーヒー屋の前で言った。」 「あぁ それは」 言葉を詰まらせ、顔を熟す寸前のトマトのように赤らめて俯いた。 裕二は確信した。 「僕のことが好きなんだよね? 実は俺も優子のことが好きなんだ。」 「そうだったんだ 分かってたんだね。 でも良かった。 裕二も私のことがすきだったなんて思わなかったし。」 余裕と言わんばかりのクールな優子は変わらなかった。 突然の両想いプロポーズは大成功に終わり、二人は公園を後にする。 クール女子の小さな足跡 果敢な男子の大きな足跡 二つの足跡を祝福するかのように太陽の光がはっきりと照らす。 雪が溶けるまで二人の思い出が残り続けるまで永遠に足跡が残り続ける。 少なくともあの時はそう思っていた。
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