甘い過去 苦い現代

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優子とはデートを重ねるようになり段々と親密度を深めていった。 時に喧しく疎んじていた時も決して離れることは無かった。 人混みで溢れる駅前 裕二は大量の十円玉を握りしめ夏美と話せるだけ話した。 「裕二さぁ 次の土曜空いてる? ほら この日裕二の合格発表じゃん!」 「そうだけど 何かやるの?」 「それは秘密 とにかくこの日にやる意味があるんだから。 いつもの公園で待ち合わせ 二時くらいかな。」 「分かった 楽しみにしてる!」 受話器を離した手を固く握る。 決意を胸に裕二は足を踏み入れたことの無い宝石店へと一目散に駆け出す。 カラフルに光を放つサファイア セレブがかけているネックレス 裕二には到底手の届かない逸品ばかり それでも男は潮時と言わんばかりの覚悟を決め七万という大枚をはたいて指輪を購入した。 面接の事はすっかり忘れ、プロポーズの言葉ばかりを考え続けていた。 初めて書くラブレターを書く手は履歴書の時よりも震えている。 彼にとっては面接結果は二の次となっていたのだった。 本番の朝 指輪とラブレターを手に持ち公園へと向かう。 しんしんと降り積る雪の中で身震いしながら夏美の事だけを考えて待った。 鳴り響く携帯電話 合格発表だった。 気分が更に高揚していき、無人の公園を走り回る。 しかし予定時間を過ぎても優子は一向に来る来ない上に連絡すらも無い 雪解け水で冷えたベンチに腰掛けると同時に連絡を続けていくも着信が来ることは無かった。 焦燥を抑えながらラジオを聴く。 「続いてのニュースです。 都内の湾岸町でひき逃げ事件が発生しました。 現場は都内の湾岸町の国道102号線で被害者は相馬大学二年の宮下優子さんで間もなく死亡が確認されました。」 水溜まりに落ちる指輪 びしょ濡れのラブレター 膝まづく少年 頬を伝う大粒の涙 二つの足跡が寂しく一つの足跡へと変貌を遂げる。 蹲る少年を嘲笑う雪が容赦なく猛風とともに降り積る。 いつしか少年の姿は消え 光を放つ指輪とラブレターが雪の中に埋もれて言った。
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