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あれから二十年が経った今
希望に満ち溢れた会社もいつの間にか折り合いが悪くなり、苦痛の連鎖が続いている。
男は今日も残業で疲れきった体を何とか動かし家路へと向かう。
「はぁー今日も疲れたなぁ。」
中年男性の恒例のボヤキが今日も木霊する。
すっかり錆びた公園を毎日通りかかるのは彼の他にいない。
今日も足跡は一つ
そんな足跡を見る度に若き日の憧憬と懐かしさが心を震わせる。
二つの足跡の正体を知る者は彼の他に存在しない。
彼は優しい微笑みを浮かべながら、公園を後にする。
この日も公園の足跡にまた新たな雪が覆い被さっていった。
家に帰ると真っ先に優子の遺影の前で合掌する。
「今日も無事に一日を終えることが出来ました。
明日もどうか見守っていてね。」
年が経つにつれて年季が入る写真
公衆電話で十円を握りしめドキドキしながら話し合った日々も待ち合わせのドキドキも今はスマートフォン一つで鮮明さが失われてしまった。
便利になった反面 昔の幸せが一掃されている事実に彼は頭を抱える。
それでもあの優子の笑顔が背中を押してくれていると感じると彼はまた立ち上がり、夕食にありついた。
「裕ちゃん お風呂沸かしといたから、食べたら入ってね。」
「ありがとう 夏子」
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