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待つこと十分、やっとホームルームの時間になって担任の松宮浩一がやって来た。
松宮は教壇に立って、微かな異臭とクラスのざわめきに気づき、目を凝らして様子を探った。すぐに樹希の机上の異変に気付き、視線が止まった。
何とも情けない目で、じっと樹希の顔を見つめる。
松宮は既に教職二十年のベテランだ。樹希が虐められていることには、もちろん気づいている。
同時にこの問題への下手な介入が、自分の教師人生を脅かすこともよく知っていた。だからほとんど見て見ぬふりをして過ごしている。
それでも糞を放置したまま授業に入るわけにはいかない。松宮は困った顔はそのままに、その重い口をようやく開いた。
「緒川さん、その机の上のものは何だね?」
「見て分かりませんか? 糞です。おそらく犬の糞だと思います」
「そんなことは見たら分かる。どうして糞を置いたままにしているんだ」
松宮は予想外の答えに多少苛立ちが籠っていた。
「なぜ、私が対応しなければいけないんですか? 私はこの糞をどうにかする前に、なぜこれが私の机に置いてあるのか、先生に問われたいと思っているんですが……」
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