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「ちょっと待って流星君、お金出すから。」
「いらない。」
「でも…「みーちゃん。」」
純喫茶の看板が落とす影の中に包まれている私達。人通りの少ない道はやはり静かだ。随分と大学の正門がある大通りが栄えてしまったせいで、客足が途絶えかけてしまっているのかもしれない。
そんなに気安く私を呼ばないでよ、流星君は何とも思っていなくても私はたったそれだけで馬鹿みたいにドキドキするし胸が締め付けられるんだから。
「僕、今日煙草持ってないの。」
「……。」
「だからね、凄くお口が寂しいみたい。」
彼が指の腹で首筋を飾るネックレスを撫でつける。誕生日プレゼントとして貰ったこれを、私は肌身離さず着けていた。相手の指が滑る様にして鎖骨を這うもんだから、発情した猫みたいに厭らしい声がつい鼻から漏れてしまった。
流星君のせいだ。身体の奥が疼いている。彼の体温に抱かれたいと本能が訴えている。それもこれも、私にあの快楽を教え込んだ流星君のせいだ。
こんなんじゃ足りないよ、もっとちゃんと私に触れてよ。理性を失って私に腰を打ち付けていた流星君を、私は一日たりとも忘れた事なんてない。兄の替わりで良い、今はそれで良い。この先も変わらないのならそのままで良い。
「その寂しさ、私が埋められる?」
自分から開口した私の負けだった。否、流星君に恋をしてしまった時点で、彼に惚れてしまった時から私はもう敗北していた。自分に負けた。本能に負けた。欲望に負けた。彼に負けた。
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