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彼の住んでいるマンションの一室を訪れるのは、私達の関係が歪んで崩れたあの一週間以来だった。開錠して玄関扉が開かれた途端に私を包む充満したバニラの香り。それにすら恍惚としてしまうのだから、流星君の香りは本当に媚薬みたいだ。
「あ、流星君、煙草ある…んっ……。」
どうやら煙草を忘れてしまっているのは事実だったらしく、寂しそうに玄関の床に放置されている箱を見つけた私の言葉は途中で遮られた。腕を引かれた勢いで鍵の閉められた玄関扉に背中が触れる。
何が起きたのか理解するよりも先に、熱い口付けで唇は閉ざされた。私の手を流星君の指がやけに丁寧に絡め取って縛り付ける。
すぐに口内に入って来た甘い舌を拒む理由なんてもう無かった。すんなりとそれを受け入れた私は重なり合った舌と唾液に興奮を覚えた。
待っていた。本当はずっとずっと、こうなる事を望んでいたの。
「みーちゃんが寂しさを埋めてくれるんでしょう?」
人差し指と中指で私の舌を悪戯に引っ張る彼が、クスリと小さく声を落とす。「それなら煙草なんていらない」そう続けた相手が、私の舌を甘噛みする。その刺激を受けただけで身体の芯が疼いて堪らなかった。
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