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地面に伸びる二つの影が繋がって一つの影になっていた。
「今度こそ亜柊にバレちゃうかな。」
土曜日の昼下がり。流星君のマンションから私の自宅までの道中で、彼が悪戯に目を細めた。とっくに流星君に堕ちてしまっている私は、結局彼の甘い誘惑を拒めずにそのまま一日をあのマンションで過ごした。
兄に露呈すれば立場が絶望的になるのはそっちの方なのに、まるで他人事みたいに肩を竦めてクスクス笑っている流星君。そして相変わらず、彼の口から兄の名前が出ただけで機嫌が急降下する幼い私。
しっかりと指を絡めて握られている手へ視線を落として、どうしてこの人は何処までも残酷に甘いのだろうかとほんの少しだけ憎く思う。
私はお兄ちゃんにバレたって良いよ。そんな本音を打ち明けたらこの脆い関係が一瞬にして崩壊しそうで口を噤む選択をする私は、臆病者で弱虫だ。
「流星君とお兄ちゃんってつくづく性格が正反対だよね。」
「そう?」
「うん。お互い対局にいる感じがする。」
「んー、正反対の性格だからこそここまで長く一緒にいられるのかも。亜柊はいつだって僕にはない発想や社交性があるから、隣にいて常に新鮮なの。たまにキラキラし過ぎてて眩しくなっちゃう時もあるけどね。」
でもそんなお兄ちゃんの事が好きで好きで仕方ないんでしょう?その質問をするまでもなく、兄の事を語らう彼の表情はそれはそれは柔和だった。
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