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てっきり我が家に用があるとばかり思っていたのに、「香椎」の表札がある門の前で私の手を離した彼がいつもの様に接吻をした。
「またお口が寂しかったの?」
そう問えば、流星君は艶笑を浮かべる。
「うん、だって寂しくなったらみーちゃんが埋めてくれるんでしょう?」
鼓膜を擽ったその台詞の余韻がまだ消えてもいないのに、流星君はあっさりと踵を返して私の視界からいなくなってしまった。
華奢なあの背中を追いかけてそのまま抱き着いてしまいたい。それから流星君の寂しさを埋めるのは私だけだし、他の誰かが埋めるのは許さないからと一思いにジェラシーをぶつけてしまいたい。
沸き上がる強烈な衝動を必死に抑えて、彼の体温が離れた虚しさを紛らわせる為に自らの鎖骨に浮かぶ鬱血痕をそっと指で撫でる。
暑さの和らいだ風が私の髪を攫った拍子に香るのは、甘い甘いバニラの香り。秋は人肌が恋しくなると云うけれど、私は流星君に初めて抱かれた日以来ずっとずっと彼の体温を恋しく想っているばかりだ。
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