144人が本棚に入れています
本棚に追加
帰宅した我が家は、シンと静まり返っていた。両親は今日も仕事だろうか。兄は今日も写真部としての活動があるのだろうか。それとも、ただ単に大学の友達と遊んでいるのだろうか。
人の気配のない我が家に安堵の息を漏らす私は、まるで道徳に背いた人間みたいだ。犯罪に手を染めた訳でもなければ、不倫をしている訳でもないのに妙な気分になる。
そういえば、この間流星君の家から帰った際には、私から流星君の香りがすると兄に睨まれたんだっけ。再び兄の殺気に刺されるのだけは避けたくて、真っ先に浴室へ向かってお風呂に入った。
「キスマーク……思っていた以上に濃く付いてる。」
曇った鏡を手で拭って、鎖骨の上にしっかりと残っている流星君の印を凝視する。すっかり彼に触れられた熱は冷めているはずなのに、印を双眸に映しただけで身体の芯が熱を孕む。
首を飾るネックレスとキスマーク。馬鹿な女だと云われそうだけれど、いつまでも眺めていられる気がする。実際、鏡に映るそれ等を見ている私の頬はだらしなく緩んでいた。
じわじわと、着実に彼の色に染まっている私の身体。徐々に彼に犯されていく頭。日に日に彼に支配されていく心。いつの間にか抜け出せない程に全身が浸かって溺れてしまっている。
お風呂から上がって髪を乾かしていると、どっと押し寄せた疲れの波にあっという間に呑み込まれてしまった私は、ベッドに倒れ込んで意識を手放した。
だから、酷く吃驚した。
「水都、このキスマークは誰に付けられた?」
次に覚醒した時、兄が私に馬乗りになって冷徹な視線を突き刺していたから、状況が一切呑み込めずに酷く吃驚したのだ。
最初のコメントを投稿しよう!