摂取7.0g

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逃げ場はなかった。私の顔を挟む様にしてある兄の手と下半身を囲う様にして立てらた兄の膝。まるで自分が柵の中に閉じ込められたみたいな状態だ。 「…お兄…ちゃん?」 目覚めた時に流星君がいた時以上に困惑が大きい。寝起きで擦れた声が、自室に小さく漏れる。しかしそれに対する相手の反応は得られない。今は何時だろうか。軽く昼寝をしていたつもりだったが深い眠りについてしまっていたのだろうか。兄が部屋に入って来た事にも、こうして至近距離に迫って来た事にも気付かなかった。 あれほど回避したいと望んでいた殺気に包まれた空気に触れている肌が痛い。微塵も逸らさずに私を閉じ込め続ける双眸が怖い。 「お兄ちゃんお帰りなさい。いつ帰って来たの?私、全然気づかなか……「誤魔化せると思ってるのか?」」 緊張で締まる声帯に鞭打って勇気を出して開口したのに、容易に蹴散らされる。 前回はどうにか通用した作り笑顔すら、もうすっかり効果を消失していた。兄の声は決して怒気を含んではいない。かと云って、いつもの様な優しさも含まれてはいない。どっちでもないからこそ、兄の感情が声色からは読み取れないからこそ、私はどうすれば良いのか分からなかった。 息を呑む。生唾を呑む。一緒にこの緊張も呑み込めてしまえば良いのに、生憎そんなに現実は生易しくない。
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