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「もう一度だけ訊く。」
普段以上に低い声に乗って降り注ぐ質問。瞬きを二、三回する間が空いた後兄は再び結んでいた口を開く。
「俺の大切な水都の身体に。」
「……。」
「キスマークなんて胸糞悪い物を付けたのは。」
「……。」
「何処のどいつだ?」
トントンと、兄の人差し指が私の鎖骨を軽く叩く。そこだけじんわりと熱く感じるのは、無論流星君からの刻まれた印が浮いているからだ。兄の高い体温のせいではない。それだけははっきりと断言できる。
詰問を終えた兄が首を横に折る。尚も表情に変化は見られない。どう答えれば穏やかに解決できるかがまるで分からない。
「……。」
後はお前が答えるだけだ。走る沈黙は私にそう訴えていた。真実を吐く気はなかった。ここで流星君との関係を自ら吐露すれば全てに終止符が打たれてしまう。私はどんなに苦しくても流星君に触れられたい。
どれだけ都合の良い女であっても良いから、彼に利用されていたいし、彼の寂しさを埋めていたい。
だって私はもう、抜け出せない所まで流星君に堕ちてしまっているから。だから、流星君を取り上げられてしまうような事態になれば、私はすぐに廃人へと成り果てるだろう。
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