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変に動揺してはいけないのは分かっているものの、ここまで容易にキスマークを付けた人間を追及されてしまうと動揺せずにはいられない。確固たる証拠でも握っているかの様な口振りだ。
前回は香りで疑いを掛けられたから今回は帰宅してすぐにお風呂に入って流星君の香りを消した。その時家には間違いなく私一人だったし、兄は絶対にいなかった。それなのにどうして覚られてしまったのだろうか。もしかするとただ単に兄が発破をかけているだけなのだろうか。
分からない。伺う術がない。だって兄の顔にはずっと歪な笑みしかぶら下がっていないのだから。
「そんなに泣くな水都。大丈夫、お兄ちゃんが沢山愛してやるからな。」
私の涙の原因は他の誰でもなく兄にあるのに、相手は声を躍らせながら再び舌で濡れた頬をなぞる。さも自分が泣かせた犯人ではないかの様な言動だった。
「気が強くて負けず嫌いなのに泣き虫。水都は昔からずっと可愛いままだな。」
お兄ちゃん、こんなのは冗談だって笑ってよ。私を少し咎める為に自らを投げ打って芝居をしてみただけだって弁解してよ。お願いだから、これ以上恐怖に突き堕とさないで。
怖いよ。凄く怖い。ずっと寒気が止まらないし、厭な脂汗までかいている。情けない程に身体は震え続けているし、こんな乱暴な事を兄がするはずないって脳が錯覚したがっている。
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