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ハァ、ハァと熱の籠った相手の吐息が、私の睫毛を煽ぐ。じっと私の顔を見つめながら、頬や瞼や額に唇を落としていく兄が残酷な現実を突き刺してくる。
「どうして流星だと分かったか知りたそうだな。」
額を隠している私の前髪をそっと指で掬い上げて毛先一本一本にキスする相手の丁寧さが、余計に怖かった。
依然として口は塞がれたままだ。何も発する権利を与えられていないし、身体もベッドに貼り付けられたみたいに動かない。文字通りの無防備だ。
「俺は水都の事なら何でも知ってる。今何を考えて何を思っているのかも分かってる。嗚呼、怯えてる水都を見るのは初めてだがこんなにも愛らしいんだな。」
“興奮する”
耳元で囁かれた言葉に涙腺は崩壊の一途を辿る。悪夢であって欲しい。それか寝惚けているだけなのだと誰かに云って欲しい。こんなのあんまりだ。こんな非情な現実なんて苦しいだけだ。
「だから俺は水都がどうして流星だと分かったのか知りたがっている事もちゃんと知っている。」
頭蓋骨を割られ脳味噌を覗かれている気分だ。悔しいけれど、兄が放った言葉は図星を突いていた。自分なりに流星君と一緒にいた証拠は完全に隠滅させたはずなのに、どうして兄が流星君に辿り着いたのか疑問に思ってはいた。
「そして俺は愛しい水都の為にちゃんと答えてやる。」
口許に蓋をしていた手が離され、神経が摩耗しているせいで不足していた酸素を咄嗟に口から取り込もうとした刹那、今度は兄の熱い唇が私の口に栓をした。
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