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喉が悲しみで締め付けられる感覚を払い除けてやっとの思いで絞り出した私の言葉は…。
「酷い?笑わせるなよ、酷いのは流星だろう?俺の愛している水都に手を出したんだ。あいつが一番残酷な奴に決まってる。」
上着を脱いでベッドの外へと捨てた兄によって一蹴されてしまった。
兄の素肌と私の素肌が触れ合う。兄の体温はやっぱり熱いし、鼻腔を掠める香りだって甘いけれどバニラとは程遠い。私の手首を掴んでベッドのシーツごと握るのだって、彼とは全然違う。
流星君は恋人繋ぎをしてくれたし、私の指を自らの指で絡めて離さなかった。儚い彼の存在を掌で感じているだけで幸せだった。流星君の愛は貰えなくても流星君が息をしてくれているだけで充分だった。
ちゃんとご飯は食べているかな。また煙草を咥えて遠くを眺めながら紫煙を揺蕩わせているのかな。寂しそうにしていないかな。悲しそうにしていないかな。嗚呼、自分の事よりも流星君の心配でいっぱいだよ。
「ごめんなさい…。」
貴方が触れてくれた身体を違う人に触らせてごめんなさい。
嗚咽混じりに漏れた言葉に、兄が私の手を引いてそっと手の甲に口付けた。
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