摂取9.0g

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背中が着地したのは兄の腕の中だった。さっきまで充満していた甘い香りとさっきまで私を支配していた体温ですぐに察した。 いい加減にしてよ。そんな文句を言ってやろうと開口したものの、言葉を発するよりも先に唇は相手からのキスで無理矢理閉ざされた。触れるだけの熱くも短い口付け。 「忘れるなよ。」 「……。」 「俺は水都を女として愛している。」 「…っっ。」 「“今回は”運が悪かっただけだ。もう俺は、我慢をするつもりなんてない。」 唾液で濡れている私の唇を親指の腹で撫でて、にやりとニヒルな笑みを湛えた相手は、信じられないと唖然とする私を置いてそそくさとその場から立ち去って行った。 ムカつく。ムカつく。ムカつく。ムカつく。ムカつく。ムカつく。ムカつく。何もかもが兄主導な状況が腹立たしいったらない。しかもまた普通にキスされてしまった。倫理観を無視した禁忌を犯すこの行為に背徳感を覚えないのが不思議で仕方ない。 「何なの…。」 廊下に溶けた私の呟き。流星君の体温を上書きした罪に償いの姿勢くらい見せてくれるのかと思ったのに、全然だ。運が悪かっただけ?私からすれば幸運でしかなかったよ。 「私が負けたみたいじゃん。気に食わない。」 下唇を噛んでぎゅっと握り拳を力を込めた私は、ぶつけようのない怒りを抱いたまま兄の後を追う形でリビングへと下りた。
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