摂取9.0g

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父親は生憎不在なものの、一家団欒の時間を過ごすのは全く久し振りだった。 任されていたプロジェクトがひと段落したらしい母親は、明日から三連休だからやっと私達に手料理を食べさせられると声を弾ませて語っていた。幼い頃からずっと多忙で殆ど家を空ける両親だったが、寂しい思いを抱えた事はない。 その理由はやはり、私の傍には常に兄が居たからだ。両親も仕事が休みの日はいつも私と兄に時間を割いてくれていたし、運動会や学芸会等の学校行事には必ず両親は有給休暇を消化してくれた。他の家庭に比べると両親が不在の時間は多いのかもしれないが、私は両親から沢山の愛情を受けた自覚がちゃんとある。 現に母は、私も兄も成人を過ぎているのに滅多にない休みを未だに私達の為に使ってくれる。そろそろ自分の為に休みを費やしてくれても構わないのに、決まって母は、休みの日に自分の子供と過ごすのが一番の幸福だと放ち笑うのだ。 「水都も大学は楽しい?」 「うん、仲の良い人もいるし充実してる。」 「勉強に関しては心配していないけれど、私はそろそろ恋の話を水都から聴きたいわ。」 「え…。」 「だって、水都ったらまるで恋している気配がないんだもの。どうなの?素敵な男の子との出逢いとかないの?」 無垢な双眸で問い掛けられた私は、思い切り動揺してローストビーフを喉に詰まらせてしまいそうになった。
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