摂取9.0g

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頭に浮かぶのは言わずもがな流星君の端麗な貌だった。彼を想うだけで、頬が上気してしまいそうになる。恋患いだなんて馬鹿げていると鼻で嗤っていた以前の自分に教えてあげたい。恋患いは酷く厄介な病な上に明日は我が身だと。 何気ない会話の一環として母は質問を放ったつもりだろうけれど、絶賛片想い中の私にとっては心拍数が上がる内容だ。 「うーん、どうだろう。」 兄みたいにスラスラと嘘を並べられれば良いのだが、良心の呵責にどうしても苦しんでしまう私は曖昧に言葉を濁すので精いっぱいだ。私の返事に「何だか怪しいわね」と悪戯っ子みたいな表情を母が浮かべる。 それだけならまだしも、さっきからずっと隣から視線を突き刺されているせいで生きた心地がしない。 「水都にはまだ早い。水都は恋なんてしなくて良い。」 左から落ちた低い声に肩がピクリと微かに跳ねた。それもそのはず、母親が向かいにいると云うのに、テーブルの下で兄の手が私の手を絡め取ったのだ。 しっかり指と指を重ねたその繋ぎ方は、誰がどう見ても兄妹がするそれではない。母の目を盗んでこんな罪でしかない事をするなんて、平然としていられるはずがない。 「ふふっ、亜柊は相変わらず水都が好きなのね。」 微笑ましそうに兄へ視線を伸ばす母は、自分の視界に入らないところで私と兄の手が厭らしく繋がれている事をきっと知らない。やましい行動に、私が心臓をバクバクさせて食事すら喉を通らなくなっている事をきっと知らない。 「それは違う。」 そして母はきっと……。
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