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摂取10.0g
一切気配を感じなかった上にまんまと不意打ちを喰らった私が吃驚の声を漏らすよりも早く、兄の手が私の口を塞いでそのまま脱衣所へと押し込まれた。
折角解放した扉も再び閉じられすかさず施錠する相手に、目を見開く。
どういうつもりなのだろうか。廊下を挟んだリビングには母がテレビを視聴して寛いでいると云うのに、こんな大胆不敵な行動を起こすなんてどうかしている。
「母さんが居るのはせいぜい三日間だけだ。さっきも言ったが俺はもうこの家から水都を出すつもりはない。」
「……放して。」
「無理な相談だな。」
「放してよ。」
「駄目だ。」
数センチ先の距離にまで迫る兄の綺麗な顔。しかし私の背中は壁と密着していて逃げ場はない。口許を覆う手はどうにか振り払えたけれど、兄は余裕風を吹かせたままだ。
脱衣所に押し戻された勢いに紛れて私の両手首をあっさりと拘束した兄は、腕を捻って束縛を解こうと藻掻く私を微笑みながら見下している。
私とお兄ちゃんでは体格の差が余りにもあり過ぎる。どうやったって敵わない。
どうして私なのだろう。羨ましい要素全てを持っている兄の恋人になりたいと願う人はこの世に沢山いるはずなのに、どうして兄が愛しているのは私なのだろう。
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