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こことここを掴めば、女の力でもゆうに大男を落とせる。そんなことは体格の良い兄を相手に、何回もやってきたこと!
腰、足、彼を宙に浮かす『中心軸』。兄より小さな男は容易い。少佐の足が浮き、身体をひねられ心優の手元であっという間に回転する。
――塚田!
心優の背後に、そんな中佐殿の驚嘆の声が。
この女に守られているはずの男が、模擬とはいえ、部下の男を空中でひっくりかえされ、なおかつ『ドシン』と床に叩きつけられ、背後から飛び出してきた。
「うわ、塚田。マジか」
「……ちゅ、中佐。面目ない」
床に仰向けになった少佐の傍に、城戸中佐が跪き案ずる顔。
額の汗をふいに拭った中佐の目つきが、そこで瞬時に冷めた目になった。
その目で、心優は見上げられる。ドキリとする。怒った目でもないが、心優の体技を讃える目でもない。
すっくと立ち上がった中佐は、先程までの『おちゃらけ』もどこへやら。真顔で元の席に戻っていく。遅れて、塚田少佐も腰を押さえながら席に戻った。
心優も合わせて、面接の椅子に腰を落とす。男二人がなにを相談している訳でもなく、ただ無言で目線を合わせ頷いているだけ……。
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