3.ドキドキです、中佐殿

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 この男性は本当は、誰よりも厳しく人を見ている。そして切り捨てている。きっと甘えた隙などちょっとでも見せたら、あっというまに秘書室から追い出されるという危機感を持った。  その時、心優は面接の日に廊下にたくさんの女性隊員が並んでいたことを思い出す。『いくらでも候補はいる。すぐに入れ替えられる。横須賀ならすぐに』。そんな危機感だった。  秘書室の男性達は、城戸中佐以外は既婚者。あの塚田少佐だって、二児のパパ。年上でベテランの男性隊員に囲まれていて、手厚く丁寧な指導は受けているが、だからといって、紅一点ちやほやされているわけでもない。  むしろ、それまでなんとなくこなしてきた『職務』に初めて真剣に取り組んでいる。    半年経った頃。城戸中佐が言ってくれた。   「女性が多い横須賀基地での、第一難関を突破したな。お疲れさん」  いまでも時々、城戸中佐を気にしている女性達からあからさまな嫌味を言われたりもしているし、影でこそこそ(実際は聞こえるように)『女っけなしの体育会系女』と囁いているところに遭遇したりするけれど、もう胸も痛まなくなってきた。
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