87.わたしも、パイロット

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 コックピットは上昇速度の間隔を伝える発信音がピピピピピと繰り返している。やがてその音がピッピッピとゆっくりになったと思ったら、心優の目の前は逆さま、上が海で下が空になっている。しかもその瞬間、コックピットがとても静かになっている。  あの綺麗なループの頂点にいる、コックピットが半回転したところ。キャノピーの上へと見上げているのに、上は空ではなく珊瑚礁の海と白い渚という不思議な世界。 「心優、気絶した?」 「……してない……」  していない。ぼんやりだけれど、気分が悪いけれど、でも見えている。雅臣と同じものをいま、わたしは見ている。  珊瑚礁の海、白い砂浜。緑に囲まれた基地。そして空と雲。逆さま!  わたしも、いま、パイロット!  恍惚として、いつまでも心優の目の前にその景色がある。  いつか教えてくれたよね。  藍の天蓋が見えるんだって。  宇宙を目の前にした藍が目に焼き付いているって。  そして珊瑚礁の天蓋。地球の様々な『青』が俺のまわりにあって包まれる。  あれをもう一度、見たくて飛んでいたのかもしれない。って。  これのことだよね? 綺麗、本当に綺麗……。  いつまでもその青に包まれて、吸い込まれそうな……。  だが、ふと我に返った心優の目の前にあるのは、海原。  あれ、いつの間に海上に?? 「気がついたか、心優」  ハッとした。あのループ頂点を最後に、やっぱり気絶してしまったらしい。 「えー、嘘! あそこから下まで降りるところも見たかった!」  もう一度やってと心優はつい叫んでしまった。 「無理、俺はもう無理。足が痛いんだって」 「そ、そうなの」
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