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「え…、あ、えっと…?」
「いやさー。なんかボクをチラ見しては苦虫噛み潰したような顔してたからさー。」
…よく見てるなこの人。
極力顔に出さない努力はして、多分白戸さんだってこっちを注視していた様子もないのに。
なんて抜け目ない人なのだろうか。
俺は内心冷や汗が吹き出しそうなのを抑えながら、平静を取り繕った。
「そんな事はないですよ。白戸さんの気のせいではないですか?」
白戸さんは疑った様子もなく「そっかー。気のせいか。ヨカッタ〜。」とコロッと満面の笑みを見せた。
目端が効く人かと思ってたけどこういうところはチョロイな。
よもや自分が人から嫌われるなんて思ってないからかもしれない。
「ほらほら飲んで。これ結構イイボトルで美味しくてお奨めだから〜。あ、この店カクテルとかも色々あるよ。バーテンダーさん腕イイから。甘いの好きなら頼んでみて。」
そんじょそこらのホステスさんより愛想よく酒を勧めてくる白戸さん。
美人で愛想もよく話術にも長けていて人の懐に入るのも得意な甘え上手。
だけど俺は失念していた。
このあざと可愛い男が可愛いだけじゃないのを。
「おれは白戸さんがキライれす。」
入店から二時間程経過した頃。
俺は何杯目か分からぬ水割りを飲み干してそう吐き出していた。
一杯飲んだら帰ろうと思っていたのに、気がつけばこの時間。
そして思いの外飲んでしまったみたいだ。思考がフワフワしていた。
俺が面前と告げたにも拘わらず白戸さんは気分を害した様子もなく、寧ろ面白そうに「ほうほう。」なんて頷いている。
「ちなみにどこが?ボク君に何かしたっけ?」
俺は無意識に傾きそうになる身体を立て直しながらその問いに答えた。
「…いから」
「うん?」
「かわいいから。かわいいところ、が…きらいです。ムカツク。」
白戸さんは合点がいったとばかりに頷いた。
「なるほど〜。たまに言われるよ。愛想笑いで上司に取り入ってるとかオッサン相手に枕営業してんじゃないのか、とかーーー」
「そーれはなく」
「え?違うの?」
キョトンと小首を傾げて見せた白戸さんを睨む。
そーいうところだ。そーいうところ!
「おれがそーいうふうになりたかった」
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