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「そーかそーか。君の気持ち分かるなぁ。」
いつの間にか俺は身体を支えて居られなくなってテーブルに突っ伏していたようだ。
テーブルの冷ややかさを熱った頬で堪能しながら俺がぐだぐだと呂律の回らない言葉で続ける話を白戸さんは相槌を打ちながら聞いていて、不意にそう言った。
「あなたに…分かるわけ、ない」
俺の欲しいもの持っていて順風満帆に過ごしてる白戸さんに俺の気持ちなんて分かるわけがない。
可愛い顔で。愛想がよくて。人に愛されて。
ズルイ。ムカツク。キライだ。
それが逆恨みだと分かっていてもそう思わずにはいられない。
「分かるよ。だってボクーーー」
そう言った声が緩く思考の彼方へ流れていく。
深酒が過ぎた俺がそこで寝落ちしたと知るのは起きた後。
だからその時の言葉の続きを俺は聞けなかった。
無論その後、寝落ちした俺を眺めて白戸さんがあはっと笑って言った言葉も。
「あーあ。飲ませりゃ白状するかなっと思って飲ませたけど。これは飲ませ過ぎちゃったなー。」
白戸さんを睨んでるなんてあなたの気のせいですよ。なんて言う俺の言葉など端っから信じていなかった白戸さんに一杯食わされた…ならぬ、浴びるほど飲まされたのだと知るのも俺の目覚めた後の話だった。
ーーー夢を見た。
何故か唐突に俺は溺れていた。
大量の水が喉に滑り込んでくる。
苦しい。助けて。
いやいやと暴れるけれど藻か何かがぎゅっと絡みついてきて一層動けなくなる。
「こらこら暴れない。イイ子だからこれだけ飲んじゃおう。ね。」
朗らかな囀りとは裏腹に喉に流し込まれる水に容赦はない。
水責めが終わってなんとか溺れるのを耐えたらしい。
下半身に疼きを感じてふるっと身体を震わせる。
「…といれ…」
水に浸かっていたから身体が冷えたのかな。
尿意を催しのろのろと歩き出す。
用をたしてようやく人心地つく。
ふと自分の姿を見下ろし違和感を覚えた。
なんだか地面が近い。手とか一回り細い気がする。
怪訝に思いながら視線をあげると側に姿見があった。
夢だから都合がいいな。
感心しながら鏡を覗き込み目を見開いた。
「え?…これ、俺?え?」
鏡に写っていたのは白戸さんだった。
白戸さんになってる。
小さい。華奢だ。可愛い。
この俺なら気に入ってくれる男が見つかるに違いない。
「おーい」
ウキウキしながら相手を探しに行こうとする俺を後ろから誰かが呼び止める。
「おーい。朝比奈くーん。」
うるさいな。俺はこれから大事な用があるんです。
そう思いながらしつこく俺を呼ぶ声の主を振り返り
…びっくりした。
「白戸、さん?」
あれ?俺が今白戸さんになってるのにどうして白戸さんが俺を覗き込んでいるんだ???
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