彼ぴバカです

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「尚弥さん」 突然名前を呼ばれて物思いに耽っていた白戸は顔を上げた。 と、いきなり少年に抱きつかれた。 勢い後ろに倒れそうになったが、反射神経の賜物で腕を突いて堪える。 「…どーしたの?」 「ヒドイ。分かってるくせに。」 ほぼ白戸に乗り上がってる感じで抱きつく少年が少し上体を起こしてむくれた顔を見せた。 カワイイな。 あざと可愛い表情。 だが、 やり慣れてないらしく、端端に羞恥が滲んでいる。 白戸的には仕草そのものよりその恥じらいの方が可愛いと思っている。 「俺が尚弥さんを好きだってもう分かってるくせに。なんで知らないふりするんですか?」 …何故… 白戸は悩んだ。 いや、答えを模索してのことではなく、どう彼に伝えようか、と。 好意を向けてくる少年を白戸も憎からず思っているので無碍に傷付けたくないのだが、まぁ仕方ない。この際だし言っておくか。 「君とどーもこーもなる気はないから?」 誰がみても明らかな程にショックで顔を硬らせた少年に白戸はやっぱりちょっと心を痛めたが、撤回はしない。 その代わりにせめてと頭を撫でてやる。 「好意は純粋に嬉しい。ありがと。だけどボク義務教育って範疇外なんだよねー。」 「え…えっ⁉︎…実はと、年下ダメだったんですか⁉︎」 想像以上に青褪めて狼狽える少年に白戸は説明を足す。 「ん〜。今は歳の差ってほどの歳の差もないし、大人になってからの数年の差なんてあってないようなもんだと思ってるし。そうじゃなくて」 義務教なんてまだ保護対象生物でしかない。 「そんな…っ。まだ大人じゃないかもしれないけど、ちゃんと自分の意思だって感情だってあります。」 尚弥さんを好きな気持ちは真剣なものだし、軽いわけでもないのに。 本気に思われていないみたいで、と少年は憤慨する。 まぁ、そうなんだろうねと白戸も納得する。 自分も通った道だからそこはなんとなく分かる。 どんだけ幼かろうと言ってしまえば赤子であろうと自我はあって、その時その時本人は至って本気なのだ。 だから少年の好意を義務教だからと軽んじているわけではない。 「それに…」と少年がいっそ思い詰めた様に呟いた。 「今の俺なら可愛いのに…。高校生になったら、大人になったら成長して可愛くなくなっちゃう…っ」 ああ…なるほど。と白戸は納得した。 少年を受け入れがたい理由が彼の言葉でよりハッキリ自覚できた。 そっかボクそもそもーーー 「可愛い子って別に好みのタイプじゃないんだなぁ…」 「…………え“えっ⁉︎」 白戸の自答のような呟きに少年が絶叫を放った。
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