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伸びてきた手が礼の手を掬い上げ握る。
握手というより令嬢をエスコートする貴族のようだな。
白戸の優雅な所作に礼が見当違いな感心をしていると
「れー君一緒に住もう?」
「え…?」
聞き間違いかと呆けた顔を上げた。
白戸はニコニコと改めて説明を加える。
「ほらここって交通の便は悪くないけど二人だとどーしても手狭でしょ。れー君の荷物置く場所ないし。」
「あ…、えっと…」
礼はどう答えるべきかと言葉を詰まらせた。
突然の引っ越したい宣言は自分のせいか。
だよな。出来る男の白戸であれば問題を即座に洗い出し即座に解決、快適かつスムーズに動けるように整えるのだろう。
いやでも。
二人で一緒にいても気兼ねなく過ごせると実証できたら礼は家に戻って通常の生活を続けていくのだろうと思っていたから。
「…気遣いはありがたいですけど、このイレギュラーな同居のためにそこまでしなくても…」
あまり面倒をかけたいくない。
そうやって無理ばっかりさせないように訓練するつもりで今同居をしているのだが。
「何言ってんの。イレギュラーな同居じゃなくて本格的な同棲しよってお誘いなんだけど。」
「………は?えぇ⁉︎」
驚いて飛び退こうとするのを白戸はぎゅっと手を握って留める。
あはは。逃がさないよ?
「たかが3日だけどなんかイケる気がしてきた。と言うか、一緒にいてもいなくてもれー君を気にしちゃうから?だったら一緒にいて弄りたい放題の方が楽しいし。」
弄りたい放題バンザイって言われても…!
いや、俺は嬉しい、けども…。
「ちょっと遠くなるかもだけど交通の便が良ければいいかな。広さ重視でも築浅じゃなければそこそこの家賃で物件はあるね。個室は其々欲しいね絶対。」
展開が早い!
あわあわしていた礼もそこではたっと我に帰る。
個室…そうだよな。一人になりたい時もあるだろう。
「って言うか。れー君がもー絶対ムリって時に物理的に逃げ込むため?」
まぁ、入る前に捕獲するつもりだけど。
と不穏な呟きがしれっと聞こえてきたが。
同棲っていつの間にこんな過酷サバイバルみたいな様相をなしていたのだろう。
と言うか思考を読まないで欲しい。
礼は暫し考えた。
実際同棲という案には即座に飛びつきたくなるほど嬉しい。
仕事が忙しいのは変わらないのだろうけど、ほんの少しでも顔を見られるのは会えないでいるよりずっといい。
けど。
1日で顔を合わせる貴重な数分で今朝みたいな事を度々されるとなったら困る。
顔の赤みは暫く引かなかったし、体の熱は凝ったままいつまでもゾクゾクするし。
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