二つの証明

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 拓海は中を見てから目を見開き、今度は俺の顔を見た。 「これって……俺が欲しかったやつじゃんか。なんで分かったんだ?」  喜びよりも先に驚きが来たようで、拓海は呆気に取られていた。  箱の中には秒針を静かに刻む、ブランドの時計が入っている。 「拓海の事なら、何だって分かるよ」  時計に釘付けの拓海に、紙袋から取り出したもう一つの包みを手渡す。  拓海は笑顔のまま「二個も良いのか?」と言って、素直に受け取った。  簡易的な紙の包装紙を外すと、黒い手帳が現れる。紙が少し膨張し、明らかに使われた形跡があることに、拓海は怪訝な顔をした。  パラパラとページを捲る拓海の表情を見つめながら、俺は数日前の記録を振り返った。  六月六日。午後六時三十八分。  拓海が職場の金北 朋美と、銀座の時計店に入る。  十分ほど物色した後、「この時計、良いと思わない? 欲しいやつなんだ」と言って、拓海はディスプレイを指さす。二十万ほどする高級時計で、拓海はこういうのが欲しいのかと参考になった。
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