二つの証明

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 あの女をかばう理由が分からない。もしかして、俺に余計な心配をかけさせない為なのか。そうだとしたら、拓海はとても健気だと思う。  六月八日。午後二時六分。  パソコンに向かって仕事をしていると、拓海から「今日遅くなる」とメールが入る。  時計店で購入した拓海が欲しがっていた時計は、すでに購入済みだ。  彼はこれを見て、きっと喜んでくれるだろう。今から拓海の笑顔を想像すると、それだけで俺の顔にも笑みが生まれる。  これからは、俺との時間を刻んで欲しい。そんな希望から、この時計を拓海に贈ろうと思っている。  付き合い初めて五年。同棲して三年にもなる。そろそろ、先を考えて両親への挨拶や養子縁組を結ぶのも視野に入れたいと思っていた。  だからこそ、拓海には余計な虫に付かれては困る。あの女に送った時計は、手切れ金として距離を置くなりして欲しい。それが難しいのであれば、俺が何とかしてあげよう。  明日は新しい人生の第一歩になる日になるはずだ。  拓海にとっても、俺にとっても。
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