二つの証明

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 六月九日。午後十一時三十五分。  拓海から「今日は帰れなくなった」と連絡が入った。あの女と誕生日を祝うようだ。どうして急に、と頭の中が真っ白になる。  もしかしたら、帰ろうとした所であの女に捕まり、無理矢理付き合わされているのかもしれない。そう思うと、拓海が可哀想にも思えた。今日は俺と誕生日を祝うと約束していたのだから、拓海が約束を破ってまで、あの女を選ぶはずがない。  だけど……もしかすると、俺の愛する気持ちが、拓海に伝わっていないのも要因の一つかもしれない。だから、俺に対する寂しさを他に向けてしまうのだろう。  最近は拓海も俺も仕事が忙しいせいか、一緒に過ごす時間が少なくなっている。必然的に想いを伝える機会も減っていた。  そこで俺は、ふと思いつく。この日記を拓海に渡せば良いのではないかと。  この記録を見て、俺がどんなに拓海の事を想い、拓海を見てきたのか。それが伝われば拓海だって、不安に思うことはないはずだ。  時計と一緒にこれを渡し、これからは同じ時を刻みながら、この手帳に二人の記録を残していけばいいのだから。
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