26人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
読み終えたであろう拓海の第一声は「なんだよ、これ」だった。
想像とは裏腹の反応に、俺は少しだけ戸惑う。
「何って……日記だよ。五年前からつけてる。本当は拓海に見せるつもりはなかったんだけど――」
「そうじゃない! 俺のこと、ずっとつけてたのかよ」
喜んでいるわけでもなく、明らかに動揺して怯える拓海。予想外ではあったが、俺は拓海を宥めるように「大丈夫だよ」と告げる。
「あの女のことなら、別に怒ってないよ。どうせ、女が無理強いしたんでしょ? だけど、俺の気持ちが分かったよね? だからもう、あの女の所に行く必要はないから」
俺は青ざめ立ち尽くしている拓海を優しく抱きしめる。
そう簡単には、断ち切れない関係なのだろう。だから、拓海はすぐには首を縦に振れないのかもしれない。
「何なら、もう二度と拓海に近づけないようにしてあげるから」
女さえ消えれば、拓海は自由になれる。俺は懇切丁寧に、拓海の耳元で諭した。
拓海は俺の腕の中で、何やらもがき、喚き出す。
きっと、俺のことを心配して、批難めいたことを口にしているのだろう。
だけど、これは手帳に続く、もう一つの証明にもなる。
二つの愛の証明を前にして、拓海はただ戸惑っているだけなのだろう。
そんな拓海を愛おしく思いつつ、俺はいつまでも宥め続けたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!