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聖夜のダブルデート
「…寒いな」
俺達は今、惑星エアスと言う場所に来ている。
そこは今の時期とても寒く、厚着をして来いと言った兄の言葉を無視したためにひどく後悔している。
「サティは寒くないのか?」
俺よりも寒そうな恰好をしているのに…サティは全然震えてない。
「全然。オレは寒さに強いから。
そうだ。服屋に行こう?まだ待ち合わせの時間まで余裕あるだろう?」
「そうだな…」
サティと共に服屋に入り、俺は厚手のコートを買って着る。
「サティは何か欲しい服はないか?」
「だいじょーぶ。服とかあまり興味ないから」
「…そうか」
本当に…サティは欲がない。
俺もそんなに欲がある方ではないが…
「そろそろ時間じゃね?行こうぜヒビナ」
「あぁ」
集合場所のホタル川公園の駐船場でサティと二人で缶コーヒーを飲んでいると時間ギリギリで兄の宇宙船が。
「ごめーんヒビナ!サティ君!遅くなっちゃった!」
宇宙船から出て来た兄と総督はしっかりした厚着をしている。
「あれ?ヒビナ。ちゃんとコート着て来たんだ。てっきり…」
「兄さん。よほど田舎の星じゃなければ服屋くらいあります」
「あっ、じゃあ忘れて来たんだ。くくっ、ヒビナったら…あてっ!」
コンッと総督が兄の頭に軽く拳を落とす。
「そう言うヒバリこそ、私に言われなければ普段着で来たではないか」
「もー。アガラさんそれ言っちゃ駄目でしょー」
キャッキャ騒ぐ兄に小さくため息を吐き、俺は時間を確認する。
「兄さん。そろそろ向かわないと」
「あ、そうだね。船出ちゃうね」
「船?」
歩きながら説明しよう。
…サティにはパンフレットを渡したが見てなかったようだ。
俺はサティの手を引き、歩き出した兄達の後を追いながら説明する。
「このホタル川は聖夜と呼ばれる1年に一度の夜にのみ現れる聖夜ホタルという物が川一面に飛ぶんだ。
それを船から見る」
「ホタル?」
「虫の一種だよ。綺麗な七色に光るんだ。
まぁ、見た目はアレに近いけど…」
アレ…アレなのか…G……
「噛み付かないから大丈夫。
さぁ、あの船に乗るんだ」
すでに見える川にはポツリポツリと光が。
船頭がいる船に俺達は乗り込むと総督が料金を払ってくれた。
「では…」
船頭が船をこぎ出すとすぐに光が増える。
1つ1つは小さな光だが、青や赤、紫や緑、黄色…さまざまな色の光が船の上を飛んでいく。
「わぁ…」
サティが俺の手を握り、光を眺める。
「凄い!まるで宇宙みたい!
ねぇ、アガラさん!」
「そうだな」
船はどんどん進み、やがて木が絡み合って出来たトンネルに入る。
「うわー!すげぇ!一面虹の光のトンネルだ!!」
「綺麗だな…」
木にビッシリと聖夜ホタル達がはりついているのか、七色の光が点いたり消えたり。
「凄い凄いアガラさん!キラキラだよ!」
「あぁ」
やがて船はトンネルを抜けたところで折り返し、もう一度トンネルをくぐって元の場所に戻って来た。
「これで終わりです。足元に気を付けて降りて下さい」
船が船着き場に着くと俺はサティを抱き上げる。
「え、ちょ」
さっと船から降りると兄が後ろで騒ぐ。
「え、えー、いいな!アガラさん、僕も…」
「しょうがないな」
俺と同じように総督も兄を姫抱きすると船からジャンプして陸地に降りる。
さすがは昔、一流のハンターだっただけはある。総督は俺よりも遠くに飛んだ。
「アガラさん凄い!」
ぎゅうぎゅうと兄は総督に抱き着いて頬を摺り寄せている。
「……」
羨ましくて…俺はサティを見る。
「…ったく。しょうがねぇな」
「!!」
なんとサティは…俺の頬にキスをしてくれた!
「あー!ズルイんだ!ラッブラブなの見せつけてー!僕だって…」
「あ、おいヒバリ…」
兄は抱き上げられたまま総督の顔を両手で掴むと音を立てながら激しくキスを総督に繰り返す。
「ん、んん…」
さすがの総督も耐えられなくなったのか、尻もちをついてしまい、それでも兄の口付けを受け続けてる。
「兄さん。人前で恥ずかしいですから…続きは帰って2人でして下さい」
「っは…お子ちゃまだねぇヒビナは。見たければ見ていいんだよ?」
「やめてください。
もう、帰りますから。
では、今日は誘っていただきありがとうございました」
俺はさっさとサティを連れてその場から立ち去った。
「…ヒビナ…」
「どうした?サティ」
宇宙船に戻ってくるとサティはもじもじしながら俺の名を呼ぶ。
「…オレも…ヒバリみたく…」
それ以上は言わせない。
サティの口に人差し指をあて
「帰ってからな?」
とささやく。
…ここだとお邪魔虫がいるからな。
「うんっ」
「…来年も来たいな」
返事をするサティの頬を撫で、俺は宇宙船を発進させる。
来年もまた、サティと一緒。
その先もずっと俺達は一緒だ。
七色に光る川を一瞬振り返り、前を向くと俺はパンドラコロニーに向けて宇宙船を走らせた。
END
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