おさとうひとさじ

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おさとうひとさじ

「きゃっ、」 ぼうっとしていた。 今日は少し忙しかったし、ご飯を食べ終えてうつらうつらしてしまっていた。 顔には出づらいみたいだけれど、私は内心どきどきしていることばかり。ぼうっとしながらお皿洗いなんてするから、シンクの落としたお皿が真っ二つだ。 姉から引き出物として貰ったものだったことを思い出して、指先が固まる。 「柚葉(ゆずは)さん?」 「あ、(たちばな)さん、ごめんなさい」 リビングからひょっこりと顔を出しているその人は、誰がどう見ても綺麗だと言ってしまいそうな顔立ちだ。 彼は私を見とめた瞬間に、すぐ隣までたどり着いてしまう。 「あ、あの」 「大丈夫ですか? けがはない?」 「あ、もちろんです。ちょっとぼうっとしていて」 「ぼうっと? 俺がやればよかった」 「いえいえ! 専務にやらせるわけには……」 「柚葉さんがケガするくらいなら、いくらでもやるよ」 「橘さん、」 「名前」 咎めるような声にうっと詰まってしまった。 相手からは真顔に見えるらしいけれど、内心は目が回りそうだ。橘さんはいい匂いがする。 「遼雅(りょうが)さん」 「はい、よくできました」 さりげなく検品するように、美しい指先に触れられる。一瞬ぴくりと指先が動いたら、遼雅さんが困ったような表情を作ってしまった。その顔に非常に弱い。
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