201215 虎穴/涙/染料

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

201215 虎穴/涙/染料

町には腕利きの染物屋がいた。その染物屋に任せれば、望みの色が手に入ると有名で客足が途絶えなかった。 ある日、染物屋に一つの依頼があった。客は、豊穣を祈る祭りを行うために虎柄の着物が必要だ、ついては本物に見紛うまでの反物が欲しいと言った。 染物屋は祭りとはとんでも無いことだと、意気込みし依頼を受けた。 だが、染物屋がいくら作っても『本物に見紛うまで』の反物にはならなかった。黒は虎の漆黒には程遠く、橙は虎の明るさには及ばなかった。 あまりの程遠さに染物屋は涙を零した。溢れる涙は拭えず、染料に諦めと共に混じっていった。 明る日に染物屋の目に入ったものは、涙で染めた反物が真っ白な布になってはためく様だった。布のすぐそばには虎がうずくまっていた。 染物屋は驚愕と困惑のまま、虎を見た。 虎も染物屋を見上げて言った。お前の反物の出来があまりもいいもので、手違えて生を与えられてしもうた。素晴らしい反物だった。 それを聞いた染物屋は本物に見紛う反物をこの目で見れず、悲しんで自死してしまった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!