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神殿騎士マックス1
その日マックスはなかなか寝付けず、外に抜け出しライゼンハイマー邸の庭のベンチに座ったまま夜空をぼんやりと眺めていた。
昔の事...マックスにとっての家族を思い出していた
マックスは両親と3人で生活していた。
母親はカルラと言い、優しい人で見た目は黒髪鳶色の瞳の素朴だが可愛らしいと評判の女性で、産まれ育った村で生活出来なくなりバーレの都市へ単身引っ越してきたばかりの時に父親のアルバンに出会ったらしい。
アルバンは当時神殿騎士で体格が熊みたいな大男で赤髪を短く刈り上げた緑色の瞳の男だ。
本人はとても真面目で信仰深い男で、単身バーレの都市へ引っ越してきて困っていたカルラを何かと面倒を見ていたら恋仲になり神殿騎士を辞めて結婚したそうだ。
神殿騎士の掟で『神殿騎士は常に顔を隠す兜をつけていなければならない』からであり、アルバンは家族との普通の生活を行いたいと思い兜を外す事を選んだ。
そのあとすぐにマックスが産まれたとカルラは良く話していた。
カルラはいろいろな物語を知っており、寝る前に必ず物語を一つ話してくれる。
その話の中で一番良く話す話があり、王子様が村娘に告白する話で、最後に青い薔薇の花に口付けし渡しプロポーズして最後に仲良く暮らす話だ。
マックスは男の子なので騎士の話や冒険譚が好きだが何故かカルラはその話を定期的にする...きっとカルラのお気に入りの話なのかもしれない、と今は思う。
その話のおかげでエルマを王子の告白から守れた訳だから寧ろ感謝しかない。
マックスはアルバンに似ず、ひ弱で小さくて泣き虫の子供だったが、アルバンはそんなマックスにとても優しくてマックスは父が大好きだった。
アルバンは神殿騎士を辞めた後は巡礼者のガイドやギルドでの薬草などの素材集めなどの比較的安全な仕事ばかりを選び、家族を養った。
仲の良い家族と評判だった...しかしマックスが8歳の時悲劇が起こる。
カルラとマックスが家でアルバンを待っていた時の事、バーレの都市は比較的安全な地域ではあるが、その時期何故か母子だけの家が襲われる事件が多発していた。
そんな中、カルラとマックスが黒装束の男達に襲われたのだ...カルラはなんとかマックスを逃すとマックスは助けを求めるために警備隊のいる所まで走って助けを求めに行った時アルバンがちょうど帰ってきた...アルバンは元神殿騎士ではあるが武器も持っていなかった上他勢に無勢、二人とも助け出された時には父は母を守ったのか母に覆いかぶさるように絶命し母は息も絶え絶えだった。
「お父さん!お母さん!」
泣き喚くマックスにカルラは形見である指輪を託す。
金で出来ており、それにはグリフォンの透かし彫りの入った指輪でサイズは男性物のようで、鎖で首からかけるようになっていた。
「ごめんね...ごめんねマックス...ごめんね...アルバン...」
そう言ってカルラは息を引き取った...マックスは身寄りのない子供になってしまったが、アルバンの元上司の神殿騎士団長であるフリッツが不憫に思いマックスを神殿騎士見習いとして引き取る事にした。
マックスは母の形見の指輪と父の唯一持っていた短剣を持って騎士団の見習いが入る寮で住む事になった。
ただアルバンに似ず小さくひ弱で泣き虫なマックスは先輩の見習いのいじめの対象になってしまう。
その時もいじめられて隠れて泣いていた時だった。
「貴方泣いてるの?」
そこにはマックスより1、2歳年上の女の子が立っていた。
とても綺麗な少女で猫みたいなアーモンド型のつり目、瞳は薄桃色をしており薄い緑色の髪はおかっぱだ。
修道士の着ている白いローブよりちょっとランクが上っぽい銀色の刺繍がされているものを身につけて、片手に子供が持つにはちょっと長いロッドを持っていた。
「僕...神殿騎士の見習い辞めたいけどお父さんもお母さんも居ないし...もういく所も無くて...」
ぐすぐすとマックスは鼻をすすりながらその女の子に話す。
「もしかして去年フリッツ団長が連れてきた子?」
マックスはこくりと肯く。
「....僕小さいし弱いから神殿騎士なんて無理だったんだ...だから先輩達にさっきも修行って言われてボコボコにされて...ぐすっ...」
「はぁ?神殿騎士見習いなら聖典の教えちゃんと勉強するのもセットなのに今の見習いの子達ってその辺全然身についてないって事じゃない!」
女の子はいじめをした神殿騎士見習いに対して怒りをあらわにする。
「私はエルマって言うんだけどさ、君!名前は!」
「マックス...」
「マックス!いい名前ね、強くなれそうじゃない!いい?神殿騎士の仕事ってバーレを守ったり寺院や神殿の守りを固める為に存在してないんだよ!神に誓い弱い者を守るためにいるの!そんな弱者をいじめるような奴らなんて、一度ぴえんって言わせてやればいいのよ!ねぇ、マックス氏は強くなりたくない?」
「...お父さんみたいになれたらいいけど...」
「じゃあ手伝ってあげるからついてきて!」
そう言ってその女の子...まさか預言者として引き取られていたエルマ様だとはその時のマックスは知る由もなかった。
「ぎゃああああ!」
「大丈夫だから!攻撃されてもすぐに傷塞がるし痛みなんて一瞬だから!」
見た目おぞましいスケルトンやらゾンビやらが襲ってくる中、あまりの恐ろしさに叫びながら懸命に剣を振るうも倒せた実感も得られず、後ろからエリアヒールをかけられ回復されつつアンデット共は浄化されていく...そんな修行を毎日続けていく内にいつの間にか精神的にタフになり(ゾンビとかスケルトンとか見てる内に流石に慣れた)レベルはガンガン上がっていって(エルマの引率で地下墓地の本来攻略できないレベルの階層をエンドレスし過ぎた)いつの間にかかなり強くなっているのを実感してきたし、だんだん背も高くなってきた(背が高くなりたいって呟いたら毎日苦手なヤクの乳を無理矢理飲まされた)
いつの間にか3か月くらいたったある日、地下墓地も10階を軽々とクリアできるようになった頃だ。
そんな中、神殿騎士への昇進資格試験の日がやってきた。
エルマはマックスを連れて会場へ引きずってやって来て無理矢理受けさせた。
「さぁ今こそ奴らをぴえんって言わせてやれるはずだよ!がんばれマックス氏!」
まだ10歳にも達してない少年にそんな力なんてないと馬鹿にしていた連中が多い中、エルマだけは応援していた...そして試験は難なくクリアした挙句、それを見て面白いと腕試しと出てきた現役の神殿騎士にも互角かそれ以上の実力を見せつけたのだ。
戦い方が実戦的で小さい身体をあえて生かして通常のセオリーでは無いアクロバティックな戦い方をし、相手を翻弄させながらも重い剣撃を喰らわせる。
「やったじゃない!」
「エルマ様のおかげです!僕いつかエルマ様の専属の護衛騎士になれるようにこれからも頑張ります!」
2人ではしゃいでいるとフリッツ団長とヘルムート枢機卿が一緒に現れた。
「げ!ヘルムートのおじさま!なんでここに...確か今日は屋敷で仕事するって言ってたのに」
「げ!じゃないでしょう、全く...エルマ様最近やたらと神殿騎士の鍛錬場付近で目撃しているって噂を耳にはしてましたが、見習い騎士を地下墓地に連れ回してたなんてとんだ悪餓鬼...いえおてんばさんなんですから」
ヘルムートは『はぁ...』と頭を手に当て、ため息をつく。
「だってマックス氏かわいそうだったんだもん...強くなりたいって言うからちょーっと一緒に地下墓地で鍛えただけだし...」
そうエルマはむくれ顔で言う。
「エルマ様は預言者ですから加護もあるし浄化の力もあるから心配はあまりして無いですがマックス君は普通の子なんですよ!何かあったらどうするんですか!!それに何なんですか今の態度は!令嬢らしさはもう諦めましたが、預言者様は預言者としての礼儀、威厳は儀式の時ばかりじゃなくて常に持ちなさいって言ってるでしょうに!全く教皇様は子供は伸びやかに生活する方がいいって言って甘いからって今回は許しませんよ!」
「ぎゃー痛い痛い!ごめんなさい!」
ヘルムートはエルマの左右のこめかみに拳でぐりぐりする、いつものお仕置きである。
ヘルムートはちょっと狂信的な所もあるが、エルマにとっての父親代わり、いやオカン的存在の1人で甘やかすよりはちゃんと育てたい側らしい。(もう1人は教皇様だが父親よりは孫甘やかしたがりのお爺ちゃんかもしれない)
(実の父親は溺愛していて甘やかすタイプだからめちゃくちゃ痛かったが寧ろこういう叱る大人がいて良かったとエルマ本人は後に語る)
ちなみに修道士や神殿騎士達は全員エルマは預言者として間違いなく能力があるし見た目も美少女ではあるが、性格が破天荒で守銭奴、口の悪い悪餓鬼で、『見た目はともかく中身が残念』『預言者というより年季の入った商店の女将』『儀式や偉い人の前だけ猫被りする天才でタチが悪い』『女の子の見た目をした聖サンソン(ガラが悪く悪魔を殴り倒す武闘派として有名の聖人)』『蝗をけしかける恐るべき存在』と散々な評価をされている。
だが懐も広く困っている人々に親切を示すをモットーとし7歳を過ぎたあたりから預言の成就からの対策として病院や救済院といった施設を作らせたり(ちなみに資金源はほぼバザーや巡礼者へのお土産、地下墓地での戦利品を売ったお金で賄っている)神殿騎士のパトロール強化で犯罪数を減らすなどを行う姿もありなんだかんだ言われてても皆に慕われている。
そんな訳で破天荒ながらも評判のいいエルマの事をちょっと可哀想に思い、お仕置きを辞めさせようとまぁまぁとフリッツが静止させた後にマックスの方を向く。
「エルマ様が勝手に試験受けさせてたってさっき聴いたが本当に実力はあるし、きっと中堅クラスの騎士くらいの能力はあると思う...だがマックスお前は四捨五入しても10歳だ...神殿騎士になるには若すぎるからなぁ...しかし試験には合格してしまった以上示しもつけねばならないし...だから次に大きな評価を得る事が出来たらそれこそエルマ様の護衛騎士になるって事でいいんじゃないかと思っている」
「ほっ本当ですか!」
「フリッツ殿、護衛の配置の件は確かに貴方に権限があるが、そんなに勝手に決めて貰っては困るのだが」
「ヘルムート卿...エルマ様も寺院に同年代の子供が居ないから寂しかったのかもしれないし、遊び相手にちょうど良いのかもしれませんよ?」
そう言われて、そうか、とヘルムートは肯く。
「はいはーい評価の条件って具体的に何をすれば良いですか?」
「そうですね、強いモンスターでも倒した証の一つでも持って来てもらうとかですかね」
「了解!」
エルマがフリッツに条件を聞きだし、親指を立ててにやっと笑顔を見せる。
「了解って何ですか!言葉は丁寧に!特に年上にはですよ!」
「ぎゃー痛い痛い!」
再度お仕置きをされる姿を周囲は苦笑いで見つめていた。
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※ゲーム豆知識
ナイト(クラス)
戦士系のクラスの一つ。装備可能武器は剣、盾、大剣、槍
アタッカーとディフェンダーの両方を担う、上位クラスになると更に専門的になってくる。
ちなみにマックスは現時点でディフェンダー寄り。
固有スキルに『威圧』があり、ユニットより弱い敵は周囲に近寄らなくなる。
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