72人が本棚に入れています
本棚に追加
神殿騎士マックス4
「マックス氏?」
後ろから声が聞こえる、大慌てで兜を被る。
「マックス氏寝られなかった?」
振り向くとそこには高そうな白いネグリジェに紫色のストールを肩にかけたエルマが立っていた。
いつもの服装と違うエルマの姿、しかも無防備な寝衣姿にマックスはどきっとするが、平素を装う。
「あ...はい...」
「あーそうだよね、今日いろいろあって緊張が解けなくて寧ろ寝られないよねぇ」
いつものようにヘラヘラと笑ってマックスの横に座る。
「星空綺麗だねぇ...やっぱりライゼンハイマーは標高高いから星空綺麗だわ」
「そうですね」
「なんか2人でこっそり寺院の裏庭に行って見に行った時のこと思い出すね」
「出逢ってすぐの時でしたね...沈着冷静の見本みたいなヘルムート様があそこまで怒る人だと初めて知りましたよ」
「おじさま実の身内ってのもあって私に厳しいからねぇ...いつもこめかみぐりぐりの刑を受けてた事が懐かしいなぁ...まぁ悪餓鬼だったから怒られて当然だったけどね」
「あはは、今でもそんなに変わらないですよ、エルマ様は無鉄砲だし見ててハラハラしますもん」
「むむ!それでも最近は怒られないように努力してるからお仕置きは無くなったよ!小言はあるけど...」
「小言はあるんですね...」
マックスはヘルムートが頭を痛めている姿を思い起こす...きっと一番頭を痛めてるのはあの方だろうなぁと思う。
エルマは少しだけ押し黙ってから口を開く。
「あのさ、今日本当にありがとうね」
「え?」
「正直な所2人が来なきゃ私あの悪魔のお腹の中だったし」
「そんな事ないですよ、大体あの悪魔エルマ様お一人の攻撃で倒したじゃないですか!」
「ディビドの足止めとマックス氏のガードがあったからだよ、だからあれは3人で倒したの!やっぱり1人で何とかするのは無理だよ~」
「エルマ様」
「今日は本当に自覚したよ...1人で抱え込んだら駄目だなぁって...悪魔に啖呵きって挑んではいたけど実は怖かった...ズタズタに切り裂かれて食べられるの怖いなって」
エルマは少しだけ震えていた。落ち着いた所で急に恐ろしくなったからだ。
「当たり前ですよ!あんな蛇の化け物倒すなんて...誰もが怖いに決まってるじゃないですか...僕だってエルマ様守るのに必死だったからその時気にもしませんでしたが、僕1人で襲われてたらあんな化け物怖くて腰が抜けてましたもの...僕が怖がりなの誰よりも知ってるでしょ?」
「そうだったねぇ...最初にゾンビに襲われた時めちゃくちゃ怖がって泣いてたもんねぇ...それがこんなに立派になってお姉さんは嬉しいよ」
「お姉さんって...エルマ様僕と1歳半しか違わないじゃないですか...」
「年上は年上なのよ!たとえ1日違いだったとしても先に産まれればお姉さんなのよ!だから私はマックス氏のお姉さんなの!」
「そんな無茶苦茶な...」
「無茶苦茶でもいいのよ!マックス氏は私の弟なの!...確かにマリウスは実の弟だけど年1しか会ってあげられないし貴族の子だからそれなりな対応しちゃうけどさ...マックス氏の方が長い付き合いだし、こんな破天荒でも良くやってくれるしマリウスとおんなじくらいに貴方の事を弟の様に私は思ってるからね!」
そう言ってエルマはマックスを頭を抱えるように抱きしめる。
「え!エルマ様!!」
兜や鎧越しとはいえ女性に抱擁され驚きを隠せない。
「私はマックス氏のお姉さんだから、たまにはお姉さんに甘えたっていいんだからね...」
エルマにとってのマックスは幼い時からの付き合いになるし彼女にとって弟であり友人である。
しかもマックスは両親も亡くし本来の泣き虫で怖がりで優しい性格からすれば過酷な道を歩んでいるのも知っている。
特に今回は実の弟のマリウスに付きっきりで寂しい思いをさせたのかもしれない、とエルマは思って出た行動だった。
肉親に対する親愛の情、実際本人はマリウスに対する情と変わらない情をもって抱きしめた....ただマックス本人の本当の気持ちなど知らないまま、それは優しさ故にとても残酷だ。
マックスは全身甲冑の姿故、エルマの体温の暖かさは感じる事ができない。しかも何時もは胸を潰して隠しているのにネグリジェのせいかむっちりとした胸が胸当てに当たっているのがわかるが肝心の柔らかさを直接感じる事はできない。
しかし自身の血が沸騰しそうで全身が熱くなる...こう見えても14歳の多感な年頃である、視野に入るだけでも正直毒だ。
それなりに異性に興味がある年頃である。しかも好きな相手に対してなら尚のことだ。
先輩の神殿騎士にも『そういう事』の知識を吹き込まれた事もあるが、『神殿騎士たるもの健全な青少年に何吹き込んでる!』とエルマが大層お怒りになり先輩方が蝗の刑に処されていた所を見るにエルマ自身はそう言う事は苦手なのかもしれない。
平常心、平常心と心の中で唱えるも心臓のドキドキが聞こえたりしないかと思う。
「エルマ様、もう僕は14ですよ?実の姉や母にだってこんな風に甘えたりしない年齢ですよ?」
そう言ってエルマを引き離し、ベンチに横に座らせる。
「む!まだ14じゃない」
不満げにエルマは頬を膨らませる。マックスはついかわいいなぁと思ってしまう。
「...でも嬉しいです...僕にとってエルマ様は命より大切な方ですもの」
そう、肉親と同じ程大切に思って貰えるだけでも満足しなければ...叶わぬ男女の仲に成らずとも...それだけでも満たされねばならないとマックスは自身を戒める。
「ふふふ、でもマックス氏も自分を大切にするんだよ!」
「それはこっちの台詞です!」
何時もの様にエルマの護衛兼弟分である自分に戻らねばとマックスは思う。
ただきっと今日感じた熱はしばらくおさまらないだろうなぁ...それこそ眠れないかもしれないとマックスは思った。
そんな姿をディビドは二階の窓から眺めていた。
「...若干妬けますがまぁ長く共にいた仲ですものね...」
ディビドは夜目も効くし読唇術も心得ているから、エルマが語った事は全て分かる。
「マックス...君は所詮弟のポジションでしか見られてないしそれで満足しようとしてる時点で私の敵じゃないんですよね」
ディビドはじっとエルマを見つめる。
「預言者としての力だけじゃない...あの憎き悪魔を滅ぼす素晴らしい力...そんな大きな力を持っているのになんて優しくて可愛いなんて...こんな悪に手を染めた穢れた私すら愛してくれる...」
すっと糸目が開く...普段見せた事すらない恍惚とした顔をし紫色の瞳が潤む。
「...エルマ様、貴女だけです...私の願いであるあの憎き悪魔共を滅ぼす事ができる唯一の方...私の大切な人...」
ーーーーー
※ゲーム豆知識
預言者の立場
一般的には保護対象として見られがちだが、預言者は神の意思によって行動する人々である故基本自由に行動させている。
教皇はそれを知っている為エルマを自由にさせている。
護衛も一応つけてはあるがそもそも何か有れば大体神罰により倒されるのであまり心配されてない。
最初のコメントを投稿しよう!