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宣教師ディビド3
エルマはディビドを労い何時ものようにアップルパイを用意して歓迎した。
会ったばかりの頃は13歳の可愛らしい子供だったのに、会えば会うほど歳を重ねて美しく愛らしくなる少女に忠誠とは別の感情が湧き上がる...
無邪気でお転婆(というか破天荒)な所もあるが、真剣に物事を語る時は歳を重ねた女性のような所もある、何よりも素性も何も知ってそれでも受け入れてくれる愛情が惹きつけられる。
ディビドは毎回帰ってくるとアップルパイを用意して笑顔で迎えてくれる少女、きっと彼女と家庭を築くなら幸せになれるのだろう、と思う様になっていた。
何故なら彼の悪魔に対する憎しみの根底には失った家族に対する愛情故だからだ...壊れた心の奥底ではそれを常に求めており、それを叶えてくれるかもしれない目の前の少女を愛おしく思っていた。
「いやぁアップルパイ美味しかったです!こんな美味しいアップルパイ作れる可愛らしいお嬢さんが預言者でも貴族でもなければ速攻口説いてお嫁さんにしたいくらいですよ!」
エルマが15歳になってからディビドは度々お嫁さんにしたい、甘やかしたいとそう言う様になった。
ディビドは飄々とした所がある為かエルマは冗談できっとからかっていると思ってはいるが、ディビドは皆が思っている以上に素直な男でもあり、演じていない時に語る言葉には嘘偽りなど実際は全く無い。
因みにエルマが預言者で神の花嫁であるため結婚などできない事くらい知ってはいる。
ただ彼女が望む時が来るならこの場から拐っていくくらいの事はしようと思っているし実際出来るだろう、護衛騎士のマックスもディビドのようにエルマに惹かれているだろうが、この数年見てきた所、ただ近くに居れば満足してるだけのヘタレだと思っている。
しかも愉快な事にエルマも肉親や兄弟に対する感情しか彼に持っていないのでマックスに対してはディビドとしてはそこまで危険視はしていなかった。
一通りの報告の後、時間を貰い念写画の古代ウルム文字の解読をする。
封印式は人が作ったものではない...正確には封印では無いのかもしれないが悪魔が弱り果て身体が保てなくなると翡翠石で作られた様な大体掌の大きさの禁呪の書き板の状態になる、封印式はそれを守るためのものだ。
そこには自身が完全に復活させる為に必要な生贄などを式に記載し、欲深い人間が解放させるのを待っているのだ。
周囲は封印式を開く為の犠牲について、やはり高位術士の血肉が必要だったようだ、それを読み進めると中心部に書かれていた一文に重要な事が書かれていることに気がつく。
『封印されし破壊と多産の神 アスモデウスの契約 古来よりその地を治めるバーレの王の娘をアスモデウスの花嫁となる契約を結び その娘の純潔を用いて真に解放せし』
悪魔アスモデウスが受肉をした後に更なる力を得る為の儀式だろう、乙女の純潔を用いるとは流石に色欲の悪魔だ趣味が悪い、と眉を顰める。
それを訳したメモをまとめてエルマに渡す為封筒に入れる。
それにしてもジルヴェスター王弟殿下をまだ一度も見た事がないな...とディビドは思う。
エルマはジルヴェスター殿下が禁呪を手にする話をしていた...しかしもう他の誰かがそれを手にしている。
エルマが語る事は多少の誤差があったとしても概ね当たるし、アスモデウスの神殿の位置すら分かっていた。
もしかするともう既に手に入れているのでは無いのか?と仮説を立てる。
次にエルマの元に向かう際はジルヴェスター殿下が来られる日に合わせ、修道士か宣教師のふりをして観察するか...とディビドは決める。
数日後、ジルヴェスター殿下がエルマの前に現れる前に報告をする為早い時間に寺院のエルマの部屋に向かう。
報告を済ますと想定通りジルヴェスター殿下が来られたと修道士が報告に来たので、変装スキルで顔を変え宣教師ダヴィデとなり、エルマとマックスと共に接見室へ向かう。
エルマはジルヴェスター殿下に辟易しており「出会った12歳の時から顔を合わせるとプロポーズして来て困るんだよねぇ」と悩ませている。
初めて見たジルヴェスター殿下は確かに見目麗しい王子様といった所だ...しかしその瞳に違和感を感じる。
サファイアのような美しい瞳なのに深い深い沼の底の様な仄暗さ、そして強い執着と劣情を持って舐め回すかの様にエルマを見つめるのだ。
ディビドはその瞳を知っている...禁呪の書き板を手に入れその力を解放した父を悪魔の受肉の媒介にしたあの『明けの明星』と同じなのだ。
...悪魔アスモデウスは色欲と破壊の悪魔、バーレの王の娘を花嫁とし純潔をもって力を解放させる
もしやジルヴェスター殿下はもうエルマに最初に出会ったその時から禁呪の力を手にしており、その贄としてエルマを狙っているのではないのか?
旧バーレは滅んだがバーレの王の娘の地位に一番近いのはエルマではないのか?だからここまで執着するのではないのだろうか?
嫌な予感がする...まさかエルマが...ディビドにとっての唯一の大切な人が悪魔に蹂躙されるなど許せるはずが無かった。
「心配せずともエルマ様は神の花嫁であって、誰の者でもありませんよ...寧ろ毎回お会いする度に口説く殿下から命を賭けてもお守りはしますがね」
悪魔の件も殿下の話も腹が立ち、不敬かも知れないが、エアヴァルドの王家よりもエルマ本人に忠誠を誓う身としてジルヴェスター殿下にはっきりと言う、向こうも睨んでくるので大人気無いとは思ったが睨む返してしまった。
エルマの為ならば目の前の殿下を暗殺するのも厭わない、ただエルマはディビドの手が血で穢れる事を望まないからしないだけだ。
しかしもしジルヴェスター殿下が禁呪の書き板をもって力を解放しているのであれば容赦はしないつもりでいる、悪魔そのものと同じくらいに悪魔の力に魅入られた存在を何よりも憎んでいるからだ。
ならば暫く殿下が居る北領騎士団へ潜入し探る事にしようと思った。
その後エルマ達にジルヴェスター殿下はもう禁呪に手を染めている可能性を示唆し、その旨を伝えてルーンウォーリアのギディオンとして忍び込む。
ここ最近ウルムとの国境付近の警備強化の兼ね合いもあり傭兵の募集もあったため都合よく潜り込む事ができた。もしそれが無くとも一般兵とすり替わるつもりではあったが。
兵士達の噂や忍び込んでの諜報活動を続けるとどうにもジルヴェスター殿下の周辺が最近きな臭いような話も耳にする。
専ら貴族出身の騎士達が『なぜあの様な有能な殿下がこの様な辺境に』だの『有能さが祟って王が嫉妬しこの様な場所に』などと言った話題だ。
ここにきてジルヴェスター殿下の評判はとても高いが確かに遠目で見る限り精錬潔白で有能な王族、筆頭騎士も霞むほどの剣の腕前もあり、誰もが憧れるのは分かる。
しかしそのカリスマ等本当に本人の力の為なのだろうか?と思う。
悪魔アスモデウスは元々旧バーレの戦いと多産の神である、埋もれていた豪勢な神殿を見るに崇敬の念を抱いていた信者も多かっただろうが、聖マーシャの神罰によって滅ぼさせ埋もれたのだろうと思われる。
人を惹きつける力のある悪魔ならそのくらい簡単なのかも知れないとディビドは思った。
コンラート陛下を裏切るのも現実に起こりうるなと思った。
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※ゲーム豆知識
北領騎士団
北領の地域を守る騎士団、大概はウルムとの国境を守っている。
コンラート王が即位して以降ジル殿下はそこに自ら配属される事を希望し身を寄せている、ゲームでは母親を殺された為に簒奪王となる為の策の筈だったが今回は何故騎士団に入ったのかは謎
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